近藤さんとお妙さん

□酔っ払いオヤジほどタチが悪いものはない
2ページ/2ページ




「ジャーン」


効果音をつけながら、待ち受け画面をひらいて松平が差しだすケータイを受けとると


「あらぁ、カワイー!」


阿音がお世辞ではなく、驚きの声をあげた。


「だろう?オジサンに似てチョーカワイーだろう?」

「こんな大きな娘さんがいるみたいに見えないわ、パパぁ」


これはたぶん、お世辞だろう。

回ってきた松平の携帯電話の液晶を見て、妙は


「このかた、こないだの…」


と、近藤の顔を見る。うん、と頷いた近藤の手に携帯電話を渡す。その様子を見ていた松平が、問いかけた。


「あれえ、なーに?娘のこと、知ってんの?」

「はい、先月、かぶき町の防災イベントで。お見かけしただけですけど…」

「防災イベントぉ?なんでそんなとこに栗子が」

「トシを訪ねてきたんだ」


首をひねった松平に、近藤が言葉を引き継いで


「俺もびっくりしたね、栗子ちゃんが現場にくるなんて初めてだったから」

「ああん?なんでアイツがトシを?」

「遊園地デートん時、一目惚れしちゃったみたいよ?」



でた、遊園地デート


それにしてもどういうことなのかしら、と妙も首をひねる。
てっきり近藤さんと、この女性のデートだと思っていたのに、副長さんも一緒だったということはグル―プデート?まさか。


「冗談じゃねェ!あのチャラ男とのデートをぶち壊しにした意味がねえじゃねーか!」

「いいじゃん、とっつァん。惚れちまったらしょーがねーよ」

「ばかやろう、オメーだって栗子のこと妹みてえに思ってるって言ってたじゃん!なんとかしろぃ」

「チャラチャラした軟弱者なら俺だって反対だが、トシをえらんだ栗子ちゃんは見る目があると思うぞ」

「ダメだダメだ栗子は誰にもやらん!嫁になんかやらないって決めたんだい!」


駄々をこねる上司をからかうように、近藤はにやにやと笑いながら


「栗子ちゃんには、トシみたいな冷静沈着な男も似合ってる気がする」

「いや、あいつみたいな奴も嫌だ!」

「栗子ちゃんには、トシみたいな知勇兼備な男も似合ってる気がする」

「いや、あいつみたいな奴も嫌だ!」


ギャーギャーと言い合いをしながらも、二人がグイグイと酒をあおるので、妙も阿音もおかわりを作るのに忙しい。


「イイ歳こいて、いいかげん娘離れしろって!」

「近藤ォォォ!てめっ、くちごたえばっかりしやがってぇぇ…」


とうとうグラスで飲むのにもどかしくなったらしい松平が、ウイスキーの瓶をわしづかみ



「みなさーん、こいつ、遊園地でウンコもらしたんですよぉぉぉぉ」


むおおおおおおおっ!? ちょっなにバラしてくれてんのクソオヤジ!!」


「うるせい!クソゴリラ!」


してやったり、と瓶ごとラッパ飲みした松平が近藤にふてぶてしく顎を突き出してみせた。親子ゲンカというより、まるで子供どうしのケンカだ。


「俺はストレスが腹にくるタイプなんだよ!つーかアンタの八つ当たりのせいで、今まさにストレスマックスだよ!」

「だからこうして発散させてやってんじゃねーか、忘れろよ近藤。飲んで忘れる、それが夜の帝王学ってもんよ」


「思い出させた元凶に言われたくねえんだけどォォォォ!!」


「さあ今夜も盛り上がっていこうぜぇ。あれから栗子がくちきいてくれないからさぁ、可哀そうなオジサンを慰めてもらっちゃおうかなー!」

「待ってました〜!!」


テーブルに片足をかけて、夜の帝王松平片栗虎はいよいよエンジンがかかってきた様子である。

かわりに近藤は、げんなりと肩を落とす。
グラスを掴んでひとくち飲み、おそるおそるといった様子で妙に苦笑いの顔を向け


「あのぅ…もらしたっつっても、そんなにスゴイ感じじゃなくってね?それにいつももらしてるワケじゃなくってね?」


と、モゴモゴと弁解をはじめた。


「…松平さんに“イイ歳こいて”なんて言っといて、近藤さんこそじゃないですか」

「面目ない」

「その言葉そのまんま返ってきてますよ、もういっそのこと二人仲良く“イイ歳こいて”を半分こ、してください」

「半分こじゃダメかもしんないけどね、半分こぐらいの自覚じゃ全然足りないかもしれないけどね、俺たち」


娘のデートを邪魔しに、遊園地に出向いた親バカの上司と部下たち。

遊園地デートのあらましに大体の予想がついた今、さっきまでのやりとりみたいに、あーでもないこーでもないと作戦を練っている様子を想像して
妙はなんだか、楽しい気分になってきた。


「まったく。だいたい、いつも飲み過ぎなんです、胃腸が弱いなら気をつけなきゃ」


そう言いながら呆れ顔で睨みつけたつもりだったのに、当の近藤はなぜか少し元気を取り戻したようだ。


「そーだお妙さん、遊園地の観覧車ってチューするためにつくられたって知ってた?」

「そんなの聞いたことないですけど」

「俺はさ、コーヒーカップみたいにグルグル回るのは苦手だけど、遊園地、楽しいですよねっ!」

「近藤さんにも苦手な物、あるんですね」

「あ、でもメリーゴーランドとかは大丈夫です。だから今度、一緒に行きましょう、遊園地!」

「…行きません」

「そーですかぁ、残念だなー」


残念と言いながらも嬉しそうな近藤に、妙は呆れを通り越して、可笑(おか)しさが込み上げてきた。



観覧車がチューするために作られた、なんて話から遊園地に誘われて

はいそーですね行きましょう

なんて返事ができるとでも思ってんのかしら、バカ!




*
つづく
*
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ