殺し屋の空色
□3:紅
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また音も無く閉じたドアの内側には、誰もいなく虚無感が生まれた。
だが妙だ。ドアには簡易ながらもドアノブがくっ付いている。風や少しの圧力を入れただけでは絶対に開かない。
しかも今ドアノブ回転してなかったか?と濡れた雑巾に入れていた力を少し抜き女社長、琥珀に目を向ける。
女はいつのまにか先程まで飲食していたものを片付けていた。素早すぎて一瞬目を疑った。そして俺をこき使わせる意味が分からなくなった。
ふと、女が見ている方向、閉じているドアを見つめる。
『次のお客はあんたに見えるかしら』
この言葉でここに来て初めて客が見れると思ったのだが、勘違いだったのだろうか。
「蒼、なにをぼさっとしているの
お客様よおもてなししなさい」
…俺に見えない客へ接客をしろとこの女は言っているのだろうか。
とりあえずこれがドッキリだった、というオチも一応考えておきながら仕切りのされてある台所へ向かった。
「こんにちは、わたくしはここの社長、海稲(カイネ)と申します」
いつもとは真逆のへりくだった声をしていることが俺のいる台所までちゃんと聞こえる。
海稲、と言ったのはきっと苗字だと思うがあれは偽名だそうだ。
殺し屋を名乗っている以上本名を出すわけにはいかないのだろう。
そうすると5ヶ月前名乗られた琥珀という名前にも疑問を持つが、他に呼び名がないし別に興味はないので琥珀と呼んでいる(実際にはあまり呼ばないのだが)。
ポットにあらかじめ入っていた湯を人肌まで冷まし、嗅いだことも無い高そうな茶葉を4杯すくって急須に入れる。
「そう…朱里(アカリ)さんというのですね、今回はどういったご用件で」
一人芝居にしては凝っているなあと思いながらも他の可能性を考えずにはいられない。
例えば…俺は今目の病気で客のいる部分だけ見えていない。だが片目がそれを補っているため俺には普通に見えているという錯覚が起こっている、とか。
やはりあの女のドッキリ、いやでも俺に見えないことは確かだ。もう自分でも訳が分からなくなってきた。
「遅いわよ雑用、満足にお茶も淹れられないのかしら」
考える暇は与えてくれないようだ。
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