朧月夜に恋をした
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※次→滝
※いつもと違うギャップが美味しいんです












風呂から上がり、自分の自室へ向かおうと校内をうろついていた時だった。
やっとついた、と部屋の戸を開けるとそこには
「なっ、三之助!?」
同室の級友は一人もおらず、その代わりに髪をすっかり下ろし、寝る体勢になっていた滝夜叉丸がいた。
あれ?
顔に出る事はなかったが、少しいつもと違う感じに驚いた。
多分何かの見間違いだと思う。
そりゃあ、今髪を下ろしている上に寝巻き姿なのだからいつもと違うのはわかるが。
とりあえず、何かが違う。
三之助はそれを隠そうと無表情に首を傾げ、
「此処三年の長屋じゃなかったっすか?」
とのんびりと自分の思っていた事を告げた。
しかし、返って来た返事は
「何を言っているのだ、お前は。此処は四年の長屋だ。また迷っていたのか?」
と滝夜叉丸は呆れながら言い、すたすたと三之助の前へ近づいた。
向こうも風呂上りだったのか、近づいてくる度に本人の自慢の一つでもある長い髪がしっとりとしていて、櫛を通した後なのか艶立って見えた。
三之助は改めておかしい、と思った。
今目の前にいる奴に対して本当に違和感が拭えないのだ。
何なんだ?
いろいろ考えるがいい答えが浮かばない。
「全くしょうがない奴だな、いい加減校内でも迷うな」
何も知らない滝夜叉丸は話を進める。
「別に迷ってなんかないっすよ」
「戯(たわ)けた事を。こうやって思っていた所と違う所にいる時点で迷っているのと同じではないか。送ってやるから付いて来い」
そう言って滝夜叉丸は三之助の左手首を取ると前を横切り歩き出そうとしたが、
「あぁ、もう別にいいっすよ。一人で帰れるんで」
と子ども扱いをしないでくれ、と言うかのように三之助は抵抗した。
しかし、向こうも向こうでそれは許せないらしく
「お前の"一人で帰れる"は信用できん!」
と一蹴された。
「あー、はいはい。わかりましたよ。すいませんでした」
あまり面倒なのはごめんだ、とこうして三之助は滝夜叉丸に引っ張られるままに歩き出した。
外は朧月夜。
二人は暗く冷たい軒下の廊下の先を歩いていった。
勿論、滝夜叉丸が一人ぐだぐだと喋りながら。
三之助はそんな滝夜叉丸の話を聞き流し、先へどんどん進んでいく滝夜叉丸の後ろ姿をただ見つめていた。
まだ何かが違う、とぼんやり考えながら。
何が違う?
髪の長さ?
着ている服?
相手はいつも嫌々見ているはずなのに。
ふと思い立って、気付かれないよう掴まれている反対の手で髪を掬い取ってみた。
うわぁ。
無言ながらも感嘆の声を上げてしまった。
流石サラストだけあってさらさらとした髪は触るだけでも気持ち良かった。
「三之助、聞いているのか?」
ちらり、と滝夜叉丸が振り返ると、手から髪が滑り落ちていった。
「いえ何もないっすよ」
「ん? まぁ、ならいいんだが」
そうしてまたぐだぐだな話が始まった。
あー、勿体ないなぁ。
三之助は一人喋っている滝夜叉丸を見て思った。
こうやってよく見ると本当に女みたいに見えるのに。
そう思った時、三之助はハッとした。
え、今俺何て?
我ながら信じられない、と三之助は心の中で慌てた。
ありえない、ありえない、ありえない!
引っ張られながら進む足取りよりも胸のどこかが早く動いているような気がする。
違う、俺はそんなつもりで…
否定したくとも、気付いた意識とは恐ろしいもので淡い月明かりでぼんやりと映る後ろ姿が綺麗に目に映る。
まさか、なんて怖くて仕方がなかった。
でも、この胸中の疼きは何なのか。
そう思えば気付いてしまった事に三之助は俺の馬鹿、と自分自身に言うのだった。







認めたくない。
まさか、……だなんて。









++++++++++
次滝難しいですね。
えっとまぁ、初書きということでお見逃し下さいませ!
後、最後の……はご自由に妄想してやって下さい。
ではでは。
 

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