送られた文
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二人は小平太が住処にしている小屋に入ると顔を見合わせた。
「久しぶりだな、長次。また忍務の依頼か?」
「いや、頼まれた文を届けに来た」
「文?」
長次は懐から一通の文を小平太の前に差し出した。
そこには『七松小平太殿へ』と綺麗な字で綴られていた。
小平太はその字を見て少し思いがけないものを見るかのような顔をした。
「この文は、どうしたんだ?」
「さっき頼まれたと言ったが」
「いや、そうじゃなくて私が聞きたいのは何で私宛に送ってきたか、だ」
「そこまでは知らない」
「何で、だ。だって、だって…、その字…」
「そうだな、お前がよく知っている女の字だ」
小平太は悲しそうに顔を俯いた。
長次はそんな小平太を見つめ、まだ小平太は女に囚われているのかと思った。
呆れてはいない。
正直、不憫に思えた。
だが、決めたのは紛れもなく小平太と文を届けるよう頼んだ女だ。
二人に何があったかなど長次は知らない。
何故、一緒にならなかったのだろう。
長次はそう思えてならなかった。
「すぐとは言わないが出来れば返事を貰いたい」
「いや、それは待ってくれ」
小平太が長次から渡された文をすうっと自分の元へと持っていくと
「返事は手紙の内容による。だから、今日は帰ってくれないか。返事は後日申の刻、いつもの茶屋で渡す」
と言った。
「わかった」
それを聞くと長次はもう用は無い、と立ち上がり、
「日は三日後。それ以上は待てない。来ない場合は返事が無い、と考えさせて貰う」
と言い残し長次はその小屋を去った。
小屋の中が静寂になる。
小平太は再び、渡された文を見つめた。
確かに自分の名前が記されている。
裏返すと一文字で『滝』と書かれていた。
「…滝」
小平太はゆっくりと文を包んでいる紙を開いてく。
間違いない、滝の字だ。
小平太はその文を見て、しみじみと思うとふと頭の奥で過去がすうっと横切った。
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