酔っても独占はします
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その頃、小平太は杯に酒を入れず、直接徳利に口をつけてどんどん酒を飲んでいた。
「ぷは、五本目ッ!」
小平太は飲み干した徳利を掲げる。
何をしているかと言うと、勿論酒宴ではよくある飲み比べ。
競っているのは文次郎と留三郎と八左ヱ門である。
その光景を仙蔵と長次、兵助が静かに酒を飲みながら眺めている。
その近くには伊作がうつ伏せになって倒れていた。
因みに片手には杯。
理由は言わずもがなである。
「六本目ッ!」
「俺も六本目だ!」
それに続いて、文次郎と留三郎がと声を上げる。
「八、大丈夫か?」
それを見物客のように見ている兵助がどんどん徳利を飲み干していく先輩の端っこで苦しそうにしている八左ヱ門に声を掛ける。
「む、無理かも……」
「馬鹿だなぁ、お前は。変に先輩のノリに乗るからだ」
また声が上がっていく。
この調子からして八左ヱ門の負けは一目瞭然である。
「もうこっちに来て、休めば? 少しでも動ける奴がいないと困るし」
「え?」
兵助が後ろを見ろ、と首をくい、くい、と動かす。
その先には部屋の隅で背凭(もた)れている雷蔵とちゃっかりその雷蔵に膝枕されながら横になっている三郎が二人して顔を赤くして寝ていた。
紛れもなくそれは酔い潰れて寝ている。
八左ヱ門の顔が少し引きつった。
「雷蔵の奴、酒弱いからを今日は止めておけって言っていたのに、三郎が勝手に勧めて飲ませた所為ですぐ酔って、そんで、後追うかのように三郎も」
「あー、もうヤダ。聞きたくねぇよ」
八左ヱ門が両手で耳を塞ぎ、兵助の言葉から逃げる。
「“荷物運び”から逃げるな。二人ともお前と同じろ組だろ?」
「人の注意を聞かなかった雷蔵とわかっていながら勧めて自分も潰れる三郎が悪い」
「お前なぁ…」
酒に強いが故のちょっとした不運。
それは酔い潰れた友達の面倒を見ること。
やがて、それは間もなく滝夜叉丸にも降りかかろうとしていた。
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