残念ながらべた惚れ
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初恋も知らなかった自分達は初めて出逢った頃はただの先輩、後輩で、それが大分慣れてくるととても気になる存在になっていって。
そして今は…










静かな夜。
明かりが燈っている四年の長屋のある一室。
その部屋に机に向かって課題をやっている滝夜叉丸とその後ろから甘えるように抱き締めている小平太がいた。
同室に本来いるはずの綾部喜八郎はいない。
先程、たきやしゃまるぅーという声と共にやって来た小平太の突然の来訪に呆れ、タカ丸さんのところで寝る、と言って自分の枕を片手に部屋を去った。
その素早さはまるで邪魔者はとっとと去ります、というようなものだった。
おかげで滝夜叉丸は喜八郎に謝罪の一言も言えていない。
内心喜八郎に申し訳ない、と思いつつも、今自分を抱きしめて離さない人に滝夜叉丸は言葉を漏らした。
「あの、先輩。すいませんが、少しやり辛いです」
「え? 何故だ? 私はただ抱き締めているだけだぞ?」
「それはそうですが……」
ずっと見られていてやり辛い。
本当に直接言わなくてはわからないのだろうか、この人は、と滝夜叉丸は小さく溜め息を吐いた。
「まぁ、細かいことは気にするな」
「気にします」
そう言いつつ、滝夜叉丸は抵抗していても無駄かと判断し、持っている筆を動かし、さらさらと文字を綴っていった。
それから二人は無言を続けた。
滝夜叉丸が課題をやり、小平太がそれを見続ける。
筆を持つ指先、綴られていく綺麗な文字、それを見つめる横顔。
どれもが綺麗、と小平太は思った。
どれぐらい経ったのだろう。
暫くして、こと、と滝夜叉丸は手に持っていた筆を置くと、ようやく小平太と正面に向き合った。
そこには穏やかに微笑む小平太がいた。
「終わったのか?」
「すいません、待たせてしまって」
「構わないぞ。やっぱり課題はしなくちゃいけないし、無理に邪魔しちゃ悪いだろ?」
「ありがとうございます」
滝夜叉丸がそう言うとすっ、と伸びた小平太の手が滝夜叉丸の頬を撫でた。
肌の滑らかさを堪能しようと何度も摩る。
やがてその手に滝夜叉丸は自分の手を重ねた。
自分と比べて随分と荒れた大きい手。
しかし、滝夜叉丸は嫌いではなかった。
生きようとしている手だと思っているからだ。
それと、好きな人の手だと思えば…
「私、先輩の手好きですよ」
「そう? 私は滝の手が好きだぞ。小さくて綺麗。私の手とは大違いだ」
「でも、私は好きです」
手に頬擦りする滝夜叉丸に小平太の中でドキリ、と胸が高鳴る。
あぁ、もう滝可愛い過ぎ。
いつもぐたぐた言う奴が自分の前でこんなに可愛くなるなんて、と思うと小平太はたまらなかった。
何故皆わからないのだろうか、この可愛さが。
滝夜叉丸はというと自分から頬擦りをしておきながら今更恥ずかしくなったのか、顔が赤くしていた。
「どうしたの、滝」
小平太が聞くと、滝夜叉丸は更に顔を赤くして口籠もる。
何でも自分が子どものようだ、と感じたらしい。
それを聞いて、糸が切れるような直感的何かが走った。
小平太はその幼気(いたいけ)な滝夜叉丸に思わず
「滝っ」
と呼び、がばっと思いっきり抱き締めた。
そのまま二人は真横に敷かれている布団へと横たわる。
「せ、先輩っ」
「もう駄目! 滝、可愛い! 私我慢できない! 抱いていい!?」
物凄い速さで滝夜叉丸の寝巻きを脱がしに掛かろうとする小平太。
それに危機感を感じた滝夜叉丸は
「な、何を言っているんですか! 今日は駄目です!」
と言った。
勿論、嘘である。
しかし、それを聞いてピタ、と小平太の動きが止まる。
その顔はあまりにもショックと言わんばかりの顔だった。
「だ、駄目なの!?」
「駄目です」
そう言われると小平太はしゅん、と子犬のように項垂(うなだ)れた。
一瞬、哀れに思えてしまうが、自分の身を思えば仕方のないことだと滝夜叉丸は言い聞かせた。
何せ小平太は一度やり始めると止まらない。
しかも、自分も情けないことに快感に弱いので毎度情事が激しくなるのは当然の事で明日が休みならいいのだが、生憎明日は普通に朝から授業だ。
優秀な自分が授業に出ないとなっては話にならない。
「滝ぃ」
「我慢してして下さい」
ピシャリとトドメを差すと小平太は悲しそうに目に涙を溜めて
「じゃあ、ちゅーは!?」
最後の望みとでも言うかのように小平太は言った。
その真剣さに滝夜叉丸は思わずくすり、と笑った。
「まぁ、それなら」
滝夜叉丸がそう答えると、小平太は滝夜叉丸の腰を掴み、後ろ頭に手を添えると優しく口付けをした。
「んっ…ふ…」
ちゅ、ちゅ。
何度も何度も自分のスキが伝わるように口付けを重ねる。
それは甘く深いものだった。
「ん、滝」
「せん、…ぱい」
重なる手と手。
白い布団に広がっていく長い髪。
さっきよりも肌蹴ていく自分達の寝巻き。
滝夜叉丸がしまった、と気づいた頃にはすでに遅かった。
口づけが終わる頃にはもう滝夜叉丸は小平太のペースに乗せられていた。
「あれ? 滝、今日は駄目じゃなかったっけ? すごくいやらしい」
「せ、先輩の所為ですっ…」
「そう言ったって、滝が可愛いのがいけない」
微笑む。
そこには大人びた優しい顔があった。
卑怯な人だ、と滝夜叉丸は思う。
自分はその甘い顔に弱いというのに。
しかし、嫌いにはなれなかった。
「滝、大好き」
胸の奥がきゅう、と苦しくなる。
つくづく私はこの人に弱いらしい、そう滝夜叉丸は思った。
















初恋も知らなかった自分達は初めて出逢った頃はただの先輩、後輩でそれが大分慣れてくるととても気になる存在になっていって。
そして今は…













お互いどうしようもないぐらい相手にべた惚れだった。
果たしてこれを淡い初恋と呼んでいいのだろうか。














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企画『恋せよ少年』
お題:残念ながらベタ惚れ


素晴らしい企画ありがとうございました。
甘いこへ滝が書けて楽しかったです!
こへ滝万歳っ!
 

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