壱
□梅の香りがする先に
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※携帯に溜めていたネタ
※滝が女の子
※さらに記憶喪失
※こへと滝の卒業後捏造
※シリアス
※すれ違いもあるけど…
※季節外れ
春雨の 雫に濡れる 梅の花
香の先に 彼方があるか
幸福とは何か?
悲哀とは何か?
所詮、そんなもの私には最初からなかったのだ。
何故なら私は自分を委ねていた人に置いて行かれたことでその無意味さを悟ったから。
何も言い残すことなく、その人は突然日常からいなくなった。
その人がかつていた場所に行ってももうそこはもぬけの殻で、何処へ行っても面影は何一つ見や足らなくて。
唯一、残されたのは記憶だけだった。
私は苦しみから逃げたくて、哀しみに狂わされたくなくて、その記憶を棄てることにした。
それは四年生の終わり頃の冬のこと。
外はひんやりとした空気に包まれ、至る所には降り積もる雪。
何もかも白く打ち消す雪で広がる世界。
私はそんな雪に真似てその人の存在を打ち消した。
ぼやける記憶。
失う温もりと冷めていく心。
瞳から熱いものが溢れていったが、それは激しいものではなく、穏やかで静かなものだった。
一度棄てたものを再び掘り起こされるのはそれから、五年後…
密偵として、町娘に化け過ごしていたある日のこと。