泪に迷う
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夜、部屋に仄かな火を灯して書に目を通していた。
誰もいない。
僕ひとり。
一緒にこの部屋を使っているもう一人の住人はお風呂に入った後、間もなく姿を消した。
行き先は多分、友人の元。
学年が上がってからというもの、金吾は団蔵や虎若のところにいることが多くなった。
間違いなくそんな気がする。
わざとなのか、と疑うほど極力避けられているのは痛いほど感じていた。
昔と比べれば、蛞蝓への溺愛は大分鎮まった。
今でも可愛いと思うけど。
部屋で飼うことは卒業した。
だから、もう変なところで無理して寝ることとかないのに、一方的に避けられる要因が全くわからない。
僕は何かしたのだろうか。
そう思っていた時、ゆっくりと戸が開く音がした。
流れてくる肌寒い風と聞こえてくるひたひた、という足音。

「まだ起きていたのか?喜三太」
「あ、うん。ちょっとね。でも、もう寝るよ」

振り返ると寝衣が少し乱れた状態や首元の痣から何があったのかが、嫌でも伺えてしまった。
少しそこは気遣って欲しいな。
あまり言う気はしないけど。

「そうか、じゃ、俺も」

蝋燭の火を消して二人揃って布団の中に潜り込む。
冷たい布団の中が身に染みる。
こうして夜が終わる。
お互い何もなく。
金吾が夜に姿を消すようになったのは、授業で閨事の話が出てからだった。
それは興味ないわけではないが、気がつけば金吾は団蔵とやっていた。
別にあーだこーだ言いたくないけど、団蔵も団蔵で噂では金吾の他に兵太夫や庄左ェ門ともやっているというのを聞いた。
本命は庄左ェ門らしいけど。
なんていうか、取られたって感じがした。
金吾にとって僕はあくまで友達らしい。
ただの友達・・・
そう考えるだけで目元が熱い。
最近、泣く事が多い。
金吾が何処かへ行く度に辛い。
好きなのに。
すん、と鼻を啜ることなく静かに泪(ナミダ)が零れた。
目を閉じれば、雫がどんどん頬を伝う。
ねぇ、少し振り向いてよ。
背を向けてばっかじゃ、何もできないよ。



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たまには金←喜もありかと。

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