届かない手
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時折、人肌が恋しい時がある。
それは淋しい時や悲しい時が特に。
そんな時が来る度、幾度もいつも傍にいる柔肌に手を伸ばそうとするが、必ず途中で手が止まる。
穢してしまう、と頭が叫んで。
別に手が汚れているわけではない。
だが、俺は触れてはいけない、慎むべきだと思わせる緊張感に襲われる。
俺は触る価値なんてない、と言い聞かせるかのように。
だから、伸ばす手はやがて何かを掴むことなくだらり、と落ちる。
手が落ちる音に気付いた向こうはこっちを向いて穏やかに笑う。
それを見て改めて嗚呼、向こうとこんなに近くにても遠い存在なんだと思い知らされる。

「金吾、どうしたの?」

近づいてくる喜三太に思わずついさっきまで考えていたことを隠すように顔を綻(ホコロ)ばせた。

「いや、別に。惚(ホウ)けていた」
「何で?」
「多分、疲れているんだろうな。最近、実戦ばっかだったし」

喜三太はふーん、と不思議そうに呟く。
無邪気は怖い。
向こうはそんなつもりがなくとも俺にこんなにも愛おしく思わせるのだから。
そう。
喜三太は友愛故に、優しくしてくれている。
惑わされてはいけない。
勘違いしてはいけない。
本気にしてはいけない。
不純な邪心は捨てなくちゃ。
これは本来、女の人に抱くものだ。
駄目、喜三太に抱いたら。
喜三太を汚したくない、傷つけたくない。
お願い。
お願いだから、喜三太。
誘惑しないで。
俺は狂っているから。

「じゃ、そろそろ寝る?」
「そうだな」

いつまで耐えればいいのだろうか。
こんな拷問のような日々。
伸ばしたくても届かないのに。
触れたくても触れられないのに。
愛しさだけが募って。
苦しい・・・


++++++++++
金吾はなんだかんだいって自己嫌悪とかしてそう・・・(汗)
 

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