リクエスト
□匣の中の蝶
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匣の中、というべきか。
此処はまさしく虫籠のようなもの。
三味線の音に扇を舞わせ、歌う女達。
男に酌をし、話に乗る女もいれば、馴れ馴れしく女の肩を持って笑う男もいる。
そんな中、ある一室にひっそりと身を隠すようにして座る女子がいた。
身に着けている簪(かんざし)や着物は朱の色で統一されている。
白い肌、真っ直ぐ流れる髪、切れのある目。
その見目麗しい顔は深く目を閉じ、周りの世界を拒絶した。
しかし、耳からは声だけが頭に叩きつけられる。
忌々しい。
何で私は此処にいるのだろう。
今の現実から離れたい気持ちが心の中で憎悪として渦巻く。
ぐ、と膝の上に乗せられている手が力を込めて握り締められた。
滝は此処に来て数年経った。
やっと十六にもなり、一人で客を受けるほどまでに働いた。
いろんな男達の相手として。
それなのに自分がこの店から出る為に必要な、自分の親が自分を売りに出す時に借りた借金の分を代わりに払う金が必要であった。
その金額はまだ自分が持つ所持金ではそこまではほぼ遠かった。
何分、着物も化粧も、飾り物も自分で調達しなくてはならないのだから。
それが余計な出費となり、手元に残るお金があまりなかった。
いくら、中には客が影でお金を渡してくれてもそれだけでも足りない。
出る手段は身請けか、用済みになるまで使われるか。
しかし、後者は絶対に許しがたかった。
自分だって自分の生きる道を歩みたいのだ。
このまま振り回されるのは嫌だった。
と、言っても前者の方は……
望み薄だった。
客のほとんどは完全に遊んでいるのが多すぎて、そんな相手に身請けされるぐらいならせめて想い、想われる人に。
そんな事を考えていた。
だが、それも無理だった。
何故なら。
「滝」
部屋の戸が開く。
そこには自分の見知る人。
松葉色の着物。
優しい顔が見えた。
「待っていました、若旦那」
この人がそうなのだから。
もうじき自分の前からいなくなる、私が想っている人。