妖怪パロ

八百万物語 其之三
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土蜘蛛退治をしたその夜、急いでいるかのように道満は清明の腕を掴み、頼光の屋敷を後にした。
その様子はまるで少し慌てているようだった。
「ね、ねぇ、道満。何? どうしたの?」
さっきまで楽しそうに酒を飲んでいたはずなのに。
清明は道満の気の変わりがよくわからないでいた。
頼光の屋敷の前に止めてあったいつも使う牛車に乗り込むと、道満は
「出せ、早く」
と、言った。
そして、ゆっくりと牛車は動き出した。
ごと、ごと、と。
「道満?」
清明は問いかける。
すると、真剣な眼差しで道満が
「清明、目を見せろ」
「え?」
どうして、そんないきなり。
理由が変わらない清明は少し困惑した。
「少しだけでいいんだ」
そう言うと、道満はぐい、と清明の顎を掴み、顔を近づけた。
瓜二つの顔が鏡のように対称になる。
道満は清明の左目を見つめた。
右目は至って普通の黒い目なのに左目が緋色のように赤く染まっている。
あの時、子ども二人が言霊を詠った時に起きた風に紛れて何かが清明の目に入っていくのを道満は見ていた。
そういうことか。
自分で納得すると、道満は掴んでいた顎を離した。
「目が赤いがなんとも無いか?」
「え? 嘘!?」
「痛くも無いのか?」
「嫌、全然。言われるまで気付かなかった。ねぇ、どっち?」
「左だ。だが、あまり擦らない方がいいと思うぞ? 逆に悪くなるかもしれないからな」
「あぁ、それもそうだね」
そう言いながらも、清明は指摘された所為で目がどうなっているのか少し不安になってしまった。
僕の目はそんなに変わっているのだろうか。
道満のさっきの慌てようからして、相当わかるほどなのだろう。
帰ったら鏡を見よう。
清明はそう思い、牛車の中揺られる。
次第にその揺れでうと、うと、と心地よくなっていき、眠気と夜遅くまで起きていたのもあって気が遠退いていくような感じがした。
視界が暗く閉じられていく。
見える世界が完全に闇へと包まれていった。
どさ。
道満の肩に清明が傾く。
すー、すー、と小さな寝息を立てて。
道満はそっとまた清明の左目を撫でた。
「いつまで待てばいいのだろうか」
切なげに彼は呟いた。
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