妖怪パロ
□八百万物語 其之二
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源頼光(みなもとのよりみつ)は生まれながらにして霊威を漂わす人物であった。
それは源氏の家系の中では特異の事であった。
基本、そこらの人と何も変わりはない。
源氏の血を引く一人として、その名に恥じぬ聡明さに武功、顔立ちなど文句は何一つなかった。
たが、そんな彼には幼い頃から理解しがたい奇行があった。
例えば、屋敷の中にいれば何もない所にひたすらずっと目をやり、庭に出れば草木花などに人と話すように語り掛ける。
また誰かに会えば、肩や足を指差し、
「そこにいるのは何方(どなた)ですか」
と言う。
それだけではない。
夜をこの上なく嫌い、恐れた。
年が十を見たない頃はよく母の所で寝ていた程でこればかりは父・満仲(みつなか)も手を焼いた事だろう。
だが、成長していくごとに奇行は増し、ついには頭を抱え意味のわからない大声を上げていた。
そんな奇行が止めば、また普通に戻る。
普通に戻ったと思えば、また奇行に走る。
切りの無い繰り返しが続いた。
頼光の奇行が鎮まるのが、渡辺綱が頼光の前に現れたぐらいの頃だった。
年は正確にはわからない。
恐らく頼光が二十になる前で、綱が十五ぐらいかと思われる。
それから貞光、季武、金時が綱に続くかのように頼光の元へ集った。
頼光に身を寄せた理由を彼らは一切口にはしない。
中々いない逸材とも存在とも言うべき彼らだ。
もっと良い主人の所に仕えられたはずである。
何故彼らは奇怪な頼光を主人として選んだのだろうか。
誰かが尋ねればただ四人とも
「あの方を人として惚れただけ」
といった類(たぐい)の冗談を言って誤魔化した。
彼らが頼光に仕えてからというもの、余程の時がない限り彼らは頼光を守るように傍に寄り添い、片時も離れなかった。
頼光の奇行の代わりに常と化した四人の存在。
果たしてそれは何故(なにゆえ)だろうか。
それに関しては酒飲みの仲である清明でも道満でも流石にわからない部分であった。
初夏の夜。
熱くも寒くも無い程良い暖かさ。
じりり、
じりり、
と、夏虫がやや騒がしく鳴いていた。
あの妙な雲が消えてから久々に見えるようになった月がよく見える。
頼光の屋敷。
いかにも息苦しそうな声が聞こえた。
吐く息が、悪い例えだが、首を絞められているかのような苦しい息なのだ。
乱れている床。
手足がばたばたと布団の中で床を叩き、苦痛に耐えようとしていた。
誰かに首を絞められているかと思うが、生憎その部屋にいるのは喘いでいるこの屋敷の主人、頼光その人だけだった。
しかも、頼光はどうやら目を瞑り、寝ているまま苦しんでいるようだった。
その時、急いでこちらへ走ってくるような足音が聞こえてきた。
戸が大きく開けられる。
「頼光君!」
綱だった。
慌てて頼光の元へ行くが、頼光は綱が来てもまだ眠りから覚めず、苦しんでいる。
「頼光君、しっかりして!」
綱は頼光を揺すり、頼光を起こそうとするが目覚める気配がなかった。