妖怪パロ
□八百万物語 其之一
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暗い蔵の中、二人の人影が対峙している。
暗くて顔はよく見えない。
周りには山のように積まれている書や巻物。
ほんのり差し込む光が蔵に満ちている塵をちらちらと光らせていた。
「その書をどうする気なんだい!?」
焦る声がする。
蔵の戸口付近に立つ男が一歩一歩と奥に居る男に近づく。
「知りたい?」
奥に居た男は面白がっている声で手に持っている書を片手でひらひらと見せびらかした。
「知りたいも何もその書は」
「そうだなぁ、お前が著(しる)したこの世で一冊しかない大事な書だ」
ぐっ、と言葉を呑むと同時に足が止まった。
何を考えているのか分からない相手を無理に刺激してならないと思ったか、はたまた言葉が出なかったかはわからない。
ただ、その書は誰かの手に渡ってはいけないという危機感が冷や汗として出た。
「お願いだ。その書だけは・・・・・・」
「安心してくれ。悪事には使わない。寧ろ、お前の為にいい事をしようと思っているんだ」
「え?」
更なる不安に駆られた。
何をする気なのだ、と。
相手が片手に持っていた書をはらり、と捲り始めた。
はら、
はら、
はら、
と、どんどん書が捲られていき、あるところで捲っていた指が止まる。
「おぉ、あったあった」
目当ての部分を見つけ、ニヤリと男は笑った。
「実はな、私はもう可愛いお前が生まれながら持って得たその力に苦しむ姿などもう見たくはないんだ。だから、もう楽になってくれ」
空いている片手で人差し指と中指を立て、印を結んだ。
異国の言葉がふつふつ、と聞こえてくる。
「オン・・・・・・バン・・・・・・ソワカ、・・・」
不味い。
慌てて奥へ走った。
「待て、お願いだ! 待ってくれ!」
はらり、
はらり、
と、墨で綴られた何枚ものの紙が散る。
書として束ねていた紐が解(ほど)け、もはや書ではなくなった。
その傍らにはさっき走ってきた男が倒れている。
今まで奥に居た男が膝をつき、手を伸ばした。
ふと書の一部だった数多くの紙に綴られている墨が次々とその紙の中心に集まり出した。
どの紙も中心にぐちゃぐちゃ、と墨で塗りつぶしたようなものになっていく。
やがて、その墨が一塊と成り、宙に浮いた。
浮いたと思えば、蔵の戸を突き破り何処かへ飛んでいった。
「これで、良くなればいいが」
ぼそ、と呟く声がした。
墨の塊が突き破った戸の隙間から漏れている光が漸(ようや)く二人の顔を映した。
その二人はとても顔が酷似していた。