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ログ(たけや家)
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※たけや家
※しっとり
※心の声!
※まさかの展開










『静かな部屋で』








「まぁ、どうぞ。あんまり綺麗じゃないですけど」
そう言って八左ヱ門は病院の隣りにあるマンションのある一室にひよを案内した。
部屋は至って片付いており綺麗だったが、少し甘い匂いがした。
何だろう、コロンのような匂い気がするけど。
その匂いが何なのか、ひよにはわからなかった。
だが、嫌いな匂いではなかった。
ひよは八左ヱ門と一緒に玄関を過ぎてリビングへと入った。
流石マンションだけあって、部屋が広い。
そこには白黒基調で統一されているシックな部屋があった。
「適当に座って下さい。今コーヒー入れますから」
そう言って八左ヱ門は対面キッチンへと入っていった。
ひよはどうしていいかわからず、とりあえず座って待とうと荷物は邪魔にならない程度に部屋の隅に置き、自分はキッチンの正面にあるテーブル椅子に座る事にした。
やがてコトッと自分の目の前にコーヒーが入ったマグカップが置かれた。
「すいませんね、インスタントのコーヒーですけど」
「いえ、大丈夫です」
ひよは渡されたマグカップを両手で包むように持つと息を吹き入れて、少し冷ましてからこく、と一口飲んだ。
八左ヱ門はカップの取っ手を片手で持ってコーヒーを飲みながらそんなひよの様子を見ていた。
コーヒーで一息ついた所でそこから話は始まった。
「実は家出、してきたんです」
「家出?」
「少し両親と揉めてしまって、自分でもどうしようもなくて、この年で情けないですが家出してきました」
「え、じゃあ仕事は」
八左ヱ門はひよの事は多少なりとも知っていた。
ひよは料理店で若女将やっていたのだ。
つまり、家出してきたということは…
八左ヱ門の言葉の返事代わりにひよは首を横に振った。
「いいんです」
まるであまり触れないで欲しくないようだった。
確かにいい話ではない。
瞬時に八左ヱ門は話題を変えた。
「あの、行く宛は決まっているんですか?」
「友人の所へ行こうと思っています。先生の所へ寄ったのはもう、当分お会い出来ないと思ったからです。それでせめて最後にご挨拶でも、と」
「え」
「本当にすみません」
申し訳なさそうにひよは頭を下げた。
その時、八左ヱ門の中である事が頭に過ぎった。
何とかしてお嬢さんを引き止めなければ、と。
理由はそう、さっき当分会えないという言葉を聞いたから。
そんなの耐えられない!
嫌だ!
我侭を言うよりも先に
「そんな、無理に友人の所に行かなくても此処にいてはどうですか!?」
という言葉が漏れた。
「え?」
思いがけない話の内容にひよは目を大きく開いた。
「いや見ての通り、こう広い部屋を一人で過ごしているんで部屋が空いているんですよ!」
「で、でもそれは流石に」
「いいですよ、お嬢さんなら。訳ありのようですし!」
八左ヱ門はそう言ってまだ暖かいコーヒーを啜(すす)った。
こう見ると落ち着いて言っているようで実は本人、とても緊張をしていた。
何言ってんだよ、俺ぇえええ!
と八左ヱ門はやってしまった自分の心の中で叫ぶ。
何がいいんだよ!
普通こんな事言わない!
こういう時はもっと何て言うか、優しく大変だったですねとか言うんじゃ…
「では、お言葉に甘えます」
「へ?」
無意識に間抜けな声が出てしまった。
「しばしの間ですが、家事洗濯料理全部致します! ほとぼり冷めるまで置いてください!」
えぇえええええええええ!







竹谷八左ヱ門、26歳独身。
まさかの展開です。









++++++++++
先進んでいけば此処らへんの理由を明かしていきたいと思いますが、とりあえずこの二人はこういった流れで同居します。
がんば、先生!
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