帰る場所 後
4ページ/4ページ

「で、でもな」
「お願いです、どうか仰ってください」
少しずつ詰め寄ってくる滝から逃げられずにあっという間に小平太と滝との間の距離は短くなった。
離れて以来の顔。
幼さは薄れて、色っぽさが増した一人の女が目の前にいた。
言っていいのかな…?
「その、先輩後輩の誼(よしみ)でちょっと泊めてくれないか、と」
駄目、やっぱり駄目だ。
「え、あ、でも…」
口篭らせながら滝は考えた。
何を考えているのだろう、この人は。
直感で嘘をついているのは容易に想像できた。
気遣っているのだろうか。
それとも何かを隠しているのか。
しかし、この人の目的がわからない以上頼みを拒むのは不味いか。
本当は何をしに来たのだろう。
そこが一番滝にとっての疑問だった。
先輩であるということはわかった。
それでも、妙に不自然だった。
夢の人と比べればやや大人びているがとても似ていて、そんな人が突然の来訪して来て、自分を抱き締めたと思ったら人の名前を親しそうに何度も呼び、三木ェ門とは何やら言い争って…
そして、あの匂袋と同じ梅の香りがした。
薄々である。
薄々だが、この人といると胸が痛んだ。
でも、確証はない。
本人が何も言ってくれないのだから。
恋人だったのか?
いや、寧ろ過去の自分が片思いしていたのか。
兎に角、この人は何かを知っている。
そんな気がした。
「まぁ、少しの間ならいいでしょう」
「そ、そうか。良かったぁ」
安堵したように小平太は言った。
「何せ勤めていた城が落城して、忍者隊はバラバラになって解散。行き場をなくして新しい勤め先を捜して放浪していたもんだから」
「そうですか、それはお気の毒に」
「気にしなくていいよ、未練とか執着とかあんまりなかったし」
「では、落ち着くまでしばらく此処にいてはどうでしょうか? 宿探しも大変ですし」
「いいの?」
「えぇ」
嗚呼、私は何をしているのだろうか。
見知らぬ男を部屋に入れるだなんて。
三木ェ門が知れば何と言うのだろうか。
仕方ないじゃないか。
ほんの少しだけ私は今この人に惹かれてしまっているのだ。
何故だろう。
初めてのはずなのにとても安心するような心地がして、懐かしい感じがして堪らないのだ。
後もしかしたら、この人は私のまだ知らない記憶を教えてくれそうな、そんな気がした。
あの、出逢った時の様子が今でも印象的過ぎて。
もう出来れば早くこんな不便かつ不安だった日々から抜け出したいのだ。
自分だけがどうも周りに置いて行かれているようで嫌だったから。
帰りたい、私は早く元の自分に戻りたい。
記憶を取り戻したい。
そこが本来、私の帰る場所であるはずだから…







帰りたい…








++++++++++
この後、後二話ぐらい続きます。
そんで完結予定です。
ぐ、ぐだぐだですいません!
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ