お題

□五十音お題
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卑怯な手段でも、いっそ清々しく振舞え
―遊戯三兄弟


「覇王ー!!」

ドタドタと走る音が家に響き、名を呼ぶ声がこだまする。少し古めの家はギシッと軋み音を出し、掃除していない屋根裏の隙間からは埃が漏れた。
十代がリビングへと入ってきて、本を読んでいた覇王に勢いよくダイブする。重みでソファーがゆっくりと沈み込む。覇王は眼鏡がずれる、とだけ呟けば視線は本へと送ったまま、なんだ。と十代に問い掛けた。

「今日はクリスマスだぜ!!サンタがくるんだよ!!」

嬉しさが滲み出ている声がこだまする。十代はニコニコと表情を緩ませてへへー、と笑いながら小さく弧を描いた。覇王の視線が本から外され彼をその金に移す。
中学2年にもなったのに今だにサンタを信じている彼に思わずため息が漏れる、まあ自分も去年までは信じていたのだが。

「そう、だな…。十代は何が欲しい?」

部屋の温度と外の温度の差で窓がすっかり白く濁っていて、その向こうにはぼやけた雪が降っているのが見えた。彼の頭を軽く撫でながら優しく微笑みかけてやる。俺はなー、と十代が覇王の細い腰に腕を回し、頬を擦り寄せながら口を開いた。

「新しいパックが欲しいんだ!!」

笑いながら言う彼に覇王はやっぱり、と表情を和らげながら眼鏡の位置を治す。毎年変わらない欲しい物にはお世話になっている。本当にわかりやすい。

「サンタは持ってくる、きっとな」

そういいながら覇王はぱかり、と携帯を開いた。ディスプレイに"メール一件あり"という文字が映される。勿論送信者は兄の名前。
開けば"十代の欲しい物はパックであってるか?"という文字。覇王は思わず無言になる。一度立ち上がり曇った窓を拭いてみるも、ただの真っ白な世界でしか無く兄の姿はない。こいつ、携帯電話も必要の無いくらい重症な電波か、と内心毒づけば彼は返事を返さず携帯を閉じた。

「どうしたんだ、覇王?難しい顔して」

「……ああ、気にするな」

首を傾げる十代に覇王はただ苦笑する。と、その時家の扉が開かれる音がリビングに響く。そしてゴトゴトと物音が聞こえて来た。

「ただいまー」

「お、兄さんが帰ってきた」

「帰ってきたか電波…にいさ…」

十代が飛ぶようにドアへと飛んでいく。それを追うように覇王がゆっくりした足取りで玄関へと歩いていく。そして目の前の光景に固まった。
玄関には袖にふわふわした白い綿の付いた真っ赤な服装に身体を包んだ兄の姿が、その手には小さな袋がある。

「よお、覇王。俺のメール無視しやがって」

「何をしている、電波兄さん」

「何って、サンタ」

「馬鹿か、貴様は」

こちらを睨みあげる覇王に二十代は服装を見せるようにし、へらへら笑った。逆に二十代が覇王に言えば覇王は鼻で笑って肩を竦めた。
十代はというと目を輝かせてサンタ姿の二十代を見ている。視線は二十代よりも袋の方へ向いている。

「兄さんってサンタだったんだな…!!!」

「おう、知らなかったか?」

「何馬鹿を言っている」

素で喜ぶ十代の頭を撫でてやりながら、二十代は笑う。それを見て覇王は呆れたような表情を浮かべていた。

「ああ、それでな…」

これがプレゼントだぜ、と二十代は袋の中をごそごそと漁りながら可愛らしいリボンの付いた包みを十代に渡した。
勿論中身は最新のパックである。十代はわー、等と嬉しそうな声をあげながらさんきゅー、と二十代に抱き着いた。そしてそのまま自室へと走っていく。
満足げな表情を浮かべながら二十代は覇王に向き直る。覇王はなんだ、と首を傾げた。

「欲しいんだろ?プレゼント」

「何を言っている?欲しいわけなかろう」

ほらよ、と二十代が袋から先ほどより少し大きめのプレゼント箱を覇王に渡す。半ば強制的に渡されたそれに覇王は明らか嫌そうな顔を浮かべている。リボンを外せばそこから現れたのは彼が前から欲しかったコンパクトな電子辞書。覇王は思わず目を見開いた。

「兄さん、これは…!!!」

覇王は靴を脱いでそそくさ入っていく二十代を声で止める。彼は振り返りながらにへらと笑った。

「俺は何でも分かるからなー。まあ、精々受験頑張るんだな」

片手をひらひらと振りながら二十代は部屋へと足を進めていく。ドアノブに手をかけ、あー、そうそう。と再び覇王へと振り返り、口を開いた。

「Merry X'mas」

そう一言残して彼は部屋へと姿を消した。何とも気まぐれなサンタがくれたプレゼントに覇王はただ玄関に立ち尽くし彼のくれたプレゼントを見ていた。


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