テニスの王子様(短編)

□誰も知らない特別授業
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今日は雨。
だから、運動部の練習はなくなって、私と彼の秘密の時間が始まる。


「遅れてしまって申し訳ありませんでした」
「大丈夫、だよ」


図書室の隣にある準備室、その戸が小さく開いた。
入ってきたのは同じクラスの柳生君。
面倒見が良くて、お世辞にも頭が良いとは言えない私の勉強を見てくれる先生だ。


『ねぇ。柳生君は?』
『見失っちゃったよぉ〜〜』


廊下から聞こえてきた女の子達の声に、柳生君は薄い唇に長い指を当てて“しぃ”と告げた。
私は柳生君の言うとおりに黙っていた。

パタパタと彼女達が立ち去る音がして、私は見つからなかったことに安堵の息をついた。


「では、始めましょうか」


柳生君の言葉に頷いて、私は教科書を開く。
大嫌いな数学。
普通の授業ではわけの分からない数字の羅列に、今だけは感謝したくなる。




「いつも、ごめんね?」


授業は私の謝罪で終わりを向かえる。
もう暗くなる時間。
最終下校時間が刻一刻と迫るなか、私は授業を終わらせる言葉を口にした。


「いえ、いいのですよ」


何時もこの瞬間が、辛い。
秘密の秘密の特別授業。
今日が終わると、次がいつか分からない。

だって、私達は付き合っているわけではないから……。

先に図書準備室から出て行く柳生君を見送って、私は戸締りの確認を始めた。


「あれ?」


窓の鍵を閉めるとき、何時もなら校門を出る柳生君の姿が見えるのに、今日は見ることが出来なかった。
少し不思議に思いながらも、私も帰る用意をして誰からも知られていない特別授業の教室を後にした。


「柳生、君?」


下足室にはさっきまで一緒に居た柳生君がいた。


「夜間の女性の一人歩きは危険ですよ……よろしければ一緒に帰りませんか?」


その言葉に真っ赤になった顔をどう隠せばいいのか分からなかった。
それでも必死に頷いた。





誰も知らない特別授業
(“今度の土曜日に会えませんか?”柳生君のその言葉から、特別授業の時間が以前より増えました)



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