□越えられない壁
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私が彼と出逢ったのは、2年前。
彼はテレビの中で、歌って踊るアイドル。
私は特にアイドルが好きってわけでもなく。
付けっぱなしのテレビから不意に流れた彼の曲。

歌詞の美しさ。

彼の声の美貌。

そして

容姿の格好良さ。

それに私の全てを持って行かれた。
彼をテレビで見るたびに、ドキドキと脈は早まり。
勝手に顔は火照る。

本当に恋をしているような。

彼の用な有名人と、何の取り柄もない、しかも地方に住む私がどこかで、ひょっとしたら縁が…などあるわけなく。
寂しくも辛い現実を見せ付けられることとなっている。



現大学生の私は、母親に辛い現実を見せ付けられ、渋々とバイトに家を出される。
なんとなく始めた、小さな居酒屋のバイト。
地元では評判の居酒屋。

「っしゃいませー」

ガララ、と引き戸の入り口が開く。
反射的に接客用語を使うが、相手を見ていなかった。

「5人なんだけど、空いてるかな?」

「はい、こちらへどーぞ」
中年のおじさんが声を掛けてきたので、適当に流しつつ、仕事に戻る。


「ねーちゃん。酌の1つもできんのか!?」

「すいません、お客様。ここはそういう店ではありませんので…」

「ん
だとー!ケチくさく渋んなや」

酔っ払ったサラリーマンに絡まれる。
私は良くあり、店長に助けられている。
困ったなー、と店長を探していると…。

「すいませんね。彼女、嫌がってるじゃないですか。」

見知らぬ男性が、私の腕を掴む、サラリーマンの手を、掴んだ。

「うっ…なんだ…冷めた。親父。ここ置いとくからな!」

サラリーマンは、男性の顔をみると、苦い顔をして去っていった。

「あ、ありがとうございます。助かりました。」

「いや、礼には及びません。」

頭を下げ、ちゃんと男性を見ようとして、私は固まった。

「う、ちは…サスケ…」

「あ、…」

マズい、といった顔をする。

「サスケさん、ですよね?」

「…そうです…」

あちゃー、と無造作に漆黒の髪をかくのもなんとも言えない色気がある。

「あ、の、私、ファンです…」

「ありがとうございます。」

「ですが、この、お礼をさせてください。ひとりの女として。」

ぽへ、と呆気に取られていたが、あぁ、と納得した表情を浮かべていた。

「明日はお時間ありますか?」

「はい。大丈夫です。」

「なら、明日、お手数ですが木ノ葉公園まで来てください。僕、そこで
撮影なんです。時間は9時からですから、撮影も観に来てください。約束ですよ?」

サスケさんはまくし立てるように用件をいう。
余りにも、テレビで余裕しゃくしゃくに話す彼の面影など、微塵ともなく。
私は笑みがこぼれた。

「えぇ。是非、お邪魔させていただきます。」

絶対ですよ!と念を押しつつ、スタッフさんらしい方につれられて、店を後にした。






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