弐
□越えられない壁
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私が彼と出逢ったのは、2年前。
彼はテレビの中で、歌って踊るアイドル。
私は特にアイドルが好きってわけでもなく。
付けっぱなしのテレビから不意に流れた彼の曲。
歌詞の美しさ。
彼の声の美貌。
そして
容姿の格好良さ。
それに私の全てを持って行かれた。
彼をテレビで見るたびに、ドキドキと脈は早まり。
勝手に顔は火照る。
本当に恋をしているような。
彼の用な有名人と、何の取り柄もない、しかも地方に住む私がどこかで、ひょっとしたら縁が…などあるわけなく。
寂しくも辛い現実を見せ付けられることとなっている。
現大学生の私は、母親に辛い現実を見せ付けられ、渋々とバイトに家を出される。
なんとなく始めた、小さな居酒屋のバイト。
地元では評判の居酒屋。
「っしゃいませー」
ガララ、と引き戸の入り口が開く。
反射的に接客用語を使うが、相手を見ていなかった。
「5人なんだけど、空いてるかな?」
「はい、こちらへどーぞ」
中年のおじさんが声を掛けてきたので、適当に流しつつ、仕事に戻る。
「ねーちゃん。酌の1つもできんのか!?」
「すいません、お客様。ここはそういう店ではありませんので…」
「ん
だとー!ケチくさく渋んなや」
酔っ払ったサラリーマンに絡まれる。
私は良くあり、店長に助けられている。
困ったなー、と店長を探していると…。
「すいませんね。彼女、嫌がってるじゃないですか。」
見知らぬ男性が、私の腕を掴む、サラリーマンの手を、掴んだ。
「うっ…なんだ…冷めた。親父。ここ置いとくからな!」
サラリーマンは、男性の顔をみると、苦い顔をして去っていった。
「あ、ありがとうございます。助かりました。」
「いや、礼には及びません。」
頭を下げ、ちゃんと男性を見ようとして、私は固まった。
「う、ちは…サスケ…」
「あ、…」
マズい、といった顔をする。
「サスケさん、ですよね?」
「…そうです…」
あちゃー、と無造作に漆黒の髪をかくのもなんとも言えない色気がある。
「あ、の、私、ファンです…」
「ありがとうございます。」
「ですが、この、お礼をさせてください。ひとりの女として。」
ぽへ、と呆気に取られていたが、あぁ、と納得した表情を浮かべていた。
「明日はお時間ありますか?」
「はい。大丈夫です。」
「なら、明日、お手数ですが木ノ葉公園まで来てください。僕、そこで
撮影なんです。時間は9時からですから、撮影も観に来てください。約束ですよ?」
サスケさんはまくし立てるように用件をいう。
余りにも、テレビで余裕しゃくしゃくに話す彼の面影など、微塵ともなく。
私は笑みがこぼれた。
「えぇ。是非、お邪魔させていただきます。」
絶対ですよ!と念を押しつつ、スタッフさんらしい方につれられて、店を後にした。
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