二
□会いたくて
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生きた年の長さよりも、人生の濃さで得た経験が警官の中でも人一倍多い斎藤と夕利なので、良く川路に重要な任務や事件を任される。それ故にすれ違ってしまう事は良くあるが…
(…そろそろ二ヶ月になるよ、最後に斎藤さんに会ってから)
誰もいないのを良い事に、夕利は自分の部屋の机に突っ伏してだらけていた。
どちらかの仕事が終わり、じゃあこっちも早く終わらせるかと頑張っていると川路に新たな任務を任されてすれ違ってしまう。それを何回も繰り返したので、川路はわざと斎藤と会わないようにしているのかとつい考えてしまう。
『…斎藤さん…』
名前を言えば淋しくなって辛くなるからあまり彼の名前を口にしないようにしていたが、会わなさ過ぎて口にしてしまった。
『…ぅー…』
斎藤の部屋に入れば仄かに彼が吸っていたと思われる煙草の匂いがするが、斎藤の姿はない。気を抜いていると斎藤がいた痕跡を探してしまう自分がいて、夕利は改めて恋とは面倒なものだと思った。
(…ん、沢下条さんか)
足音の主の気配を探ってそれが張のものだと分かると夕利は体を起こして背伸びをした。簡単に身なりを整え、警官である自分に切り替わると扉が控えめにノックされた。
『どうぞ』
「ん、ああ」
小さく開けた扉の隙間から中を覗いて、夕利がいる事を確認した張は部屋に入って扉を閉めた。
『お疲れ様です』
「今日はおるんやな。いやーこの前旦那がおったらから変に緊張してもーたわ」
おちゃらけた口調で場を和ませた張は自分の手でパタパタと顔を扇ぎ、近くの椅子に腰掛けた。
『…斎藤さんが、私の部屋に、ですか?』
「そーや。で、からかっても涼しい顔で煙草吸って、ワイに姐さんの様子をぎょーさん聞いたらガン飛ばして来て、『サッサと行け阿呆』なんて言うんやで?あっ、これ秘密な?」
『はいはい』
斎藤に会った時に、そのネタで弄ってあげようと思った夕利はてきとうに相槌を打って置いた。
「ん?ここにいて寛いでるっちゅーコトは、任務は終わったんか?」
『寛いでるって訳ではないですけど、任務が終わったのは事実です』
「ほんまか。…ハァ…早く旦那の任務が終わるとええな。姐さんに会わなさ過ぎて旦那、結構ピリピリしとるで」
『そうなんですか?』
「ああ、姐さんは分からんかもしれんけど、姐さんが側にいないとおっかない顔が余計おっかなくなるんや。こんな感じに」
目尻を指で吊り上げて斎藤の顔真似をする。特徴は掴めているけれど、似てないので夕利は思わず小さく吹き出して笑った。
『沢下条さんっ、似てないので止めて下さいっ』
「へーへー」
夕利に言われて張は引っ張った皮膚を解す。斎藤と同じくピリピリしていた夕利の笑みを久しぶりに見れたので、張は斎藤に調べるよう言われた情報を夕利を渡した。
「姐さん、ワイちょいと息抜きに外出るんで、これ誰かに取られんよう預かっとって」
『分かりました』
「ほな」
バタンッと扉が閉まる。張が部屋を出ると夕利は一先ず渡された情報を近くの机に置き、椅子の背もたれに凭れた。
『うーん…気を遣わせちゃったな…』
張が斎藤の下に就いてからそれなりに経ったので、張のおちゃらけたような振舞いのちょっとした違いがなんとなく分かって来た。
今度何か奢ってあげようと思った夕利は張が調べた情報に目を通し始めた。