□いつもと違う非番
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斎藤は玄関の戸に軽く寄りかかり、腕を組んで待っていた。少しして夕利が小走りで駆け寄って来た。


『戸締まりは全部大丈夫でした』


「そうか、なら行くぜ」


斎藤は踵を返し、玄関の戸を開けようとする。すると、マッチの箱が落ちた。
外に出たら吸おうとしたのだろう。斎藤は気付いていないようなので夕利は草履を履くとしゃがんだ。
急にしゃがんだ夕利が気になった斎藤は軽く腰を曲げて夕利の様子を見た。



「オイどうし――」



斎藤が覗き込んでいるのを知らないで急に頭を上げたので、夕利の頭と斎藤の額が勢い良くぶつかった。
鈍い痛みが走り、二人はぶつけた所を押さえた。


『ッ……』


「…だ、大丈夫ですか夕利さん」


『…大丈夫だが気を付けろ阿呆』


「す、すみません…」


斎藤は背筋を伸ばすとゆっくり立ち上がる夕利を申し訳なさそうに見つめた。
夕利は拾ったマッチ箱を持っていた巾着に入れた。


『…ん?
一箱か。足らんな』


「煙草ですか?
…あ、二箱持ってます」


『一つ寄こせ』


「はいはい」


手を出す夕利に斎藤はにっこり笑って懐に入っていた煙草の箱を一つ手渡す。
貰うと夕利は礼を言わずに巾着に入れた。あえて礼を言わない夕利に斎藤は口元を緩ませたが、ある所に目が留まると眉を下げた。


「…赤くなってますね」


夕利の前髪の下に手を滑り込ませて上げるとぶつかった所が赤くなっていた。
痛みを癒すように優しい手付きで撫でられた夕利は視線を斎藤から外した。


『…腫れなんざ直ぐに引く。気にするな』


「…ですが」


『ハァ…そういうお前も赤くなってる』


夕利は背伸びをして赤くなっている額に触れる。
頑張って背伸びしている所が可愛らしくて、斎藤は軽く腰を曲げて手が届き易いようにした。


「ふふ、ありがとうございます」


『フン』


鼻を鳴らすが撫でる手は止めない。とりあえず痛みが引くまで二人は相手を撫で続けた。


玄関の戸締まりは夕利がしっかりし、終わると歩き出す。斎藤はその隣を並んで歩いた。


「夕利さん」


『なんだ』


「手を繋いでも良いですか?」


『ハァ…ったく、そんなコトでイチイチ訊くな阿呆。



…良いぜ』


「ふふ、では」


軽くそっぽを向いてぽそっと言った夕利が可愛らしくて斎藤は笑みを深める。
斎藤はぎゅっと小さくてタコのある手を握る。嬉しそうににこにこ笑っている斎藤を見た夕利は小さく溜め息を付くと握り返した。
何も言わずに握り返してくれた年下の彼女に、斎藤は癒された。


「ふふふ、本当に可愛い人ですね夕利さん」


『…五月蠅い』


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