□龍が来たる
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涼しげな風が頬を撫でる。
さらさらと川のせせらぎの音が心地好く感じる。
橋の上にいる夕利は流れる川の水を眺めていた。
物思いに耽るその横顔には誰もが足を止める。


(……あまり見ないで欲しいんだけどなぁ…)


唯一の幸いと言ったら誰も夕利に話し掛けない事。
近寄りがたい空気を纏う夕利に話し掛けるのはよっぽどの馬鹿だと思う。
人々の視線が気になりつつも川の流れを見つめる。


(これから先、どうなって行くんだろう……)


山崎の情報で長州の桂小五郎と薩摩の西郷隆盛が京都の薩摩藩邸で会談し、
土佐の坂本龍馬と中岡慎太郎の介助により、薩長同盟が結ばれたと聞いた。
それにより幕府は長州再征を断念。討幕の動きが活発になってしまった。
討幕派の者と闘い、怪我をして帰って来る隊士達を見る度夕利の胸は痛む。
ただ見ているしかない自分が歯痒い。

討幕の水が増えていく。
いつしかそれは波になって幕府を飲み込もうとする。
しかし簡単に飲み込まれる程、幕府は軟弱ではない。
それ相当の波で立ち向かおうとするだろう。
二つの大きな波がぶつかり合った時、多くの死者が確実に出る。


(…どうか皆が生き残れますように…)


静かに瞼を閉じ、両手を合わせて仏に祈る。
こういう時だけ仏に頼る身勝手な自分は嗤える。
夕利は大切な人達が生き残る事をひたすら祈った。
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