二
□森の中にて
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サワサワ葉が揺れる中袖から黒光りする苦無を出す。
狙いは既に定めているので素早く投げると吸い込まれていくように木に貼った的の中心に刺さった。
「おぉおぉ、余裕そうな顔して」
『何年苦無を投げてると思ってんだ。やり慣れれば真ん中に刺さるもんでしょ』
また出して投げる。
さっきのより少しだけずれたところに刺さったが、真ん中の赤丸に当たっている事に変わりない。
『…それで、何故獅子口と蝉丸がここにいる。
暇だからとか言ったら的の代わりになって貰うけど』
氷の様な冷たい声の主はチャキッと苦無を二本出す。
相変わらず恐いと蒼紫は横目でその光景を見る。
「ほら、確か今日二人が帰って来るだろ?」
「バラバラなトコにいるより一ヶ所に固まってた方があいつらは探し易いだろ」
『……もっともらしい事言って、本当は暇だからじゃないのか?』
「まあな」
ニッと笑って答える蝉丸の言葉に夕利の片眉が吊り上がった。
『……蒼紫、うちは暫くこの的使うからあんたはそいつらを的にして殺りな』
「字がちがーう!
――って蒼紫!
本当に投げるな!!」
とりあえず今は夕利に従っておこうと蒼紫は二人に向かって苦無を投げた。
二人は奇声や悲鳴をあげながら正確に急所に飛んで来る苦無を避ける。
五月蠅い事この上ないが夕利は無視して的に刺さる苦無を次々抜いて行く。
御庭番に来てから夕利のスルー、または無視スキルが格段に上がっているのは言うまでもない。
(……やっと二人が帰って来る)
馬鹿三人と行動しているとこっちに移りそうだ。
まともな二人が戻って来ればいくらかましになる。
(早く帰って来ないかな…)
苦無を全部抜き終わると目の前の的を見た。
真ん中の赤丸に苦無が刺さって穴が開きまくってるお陰で赤い部分がすっかり見えなくなっていた。