□捌拾壱話「家族」
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バサッバサッ



鳩が江戸城上空を飛ぶ。黙々といらない小枝を鋏で切っていた庭師は羽音を聞くと上を見上げ、鳩を見ると辺りを確認しながら人気のない所に移動する。その後を追う鳩はふわりと庭師の腕に舞い降りた。良く見ると足には文が付いていた。


「……ふむ、もうその時期か」


と言って顎に手を添える。文は流れる様な美しい字で書かれており、送り主の名の横には蓮を象った判子が押されていた。















御頭に呼び出されて戻って来た夕利の顔を見ると、桔梗は嬉しそうにふわりと優しく笑った。


「そうか、もうあの時期なんだね」


『ええそうです』


あの時期が何なのか分からない蒼紫は眉をひそめる。他の三人は分かるらしく、ああ、と短く言った。


『もう準備は良いか?』


「え゛、もう少し待って下さい」


『…ったくなぁ、松風さん、良いですか?』


「ふふ、良いわよ」


夕利が御頭に呼ばれている間休んでいた蒼紫に風を送っていた椿はそう言うと扇を蒼紫に渡して近付く。手にはいつの間にか小刀が握られていた。


「行くわよ」


『いつでもどうぞ』


先に仕掛けたのは椿だった。突きを繰り出し夕利はそれを紙一重で避ける。予測していたので直ぐに横薙の攻撃に変換させたが夕利の姿は後ろにあった。


「早くなったわね」


『お陰様で』


体格の差と実力の差と体力の差が大きいので、椿は本気ではやっていない。
それでも見ている側としては手の汗を握るような手合わせだ。


「嬉しそうだねぇ…」


「そうだな」


「…誰がですか?」


「夕利だよ夕利。おら良く見てみろ。嬉しくて張り切ってるだろ」


指差す方向を見ても夕利は相変わらずで、嬉しそうとか張り切っているとかそういうのは分からない。眉間に皺を軽く寄せ、目を細めて夕利を見据える蒼紫に周りは笑った。


「まあその内分かるようにはなるさ」


「焦らずじっくり夕利の動きや表情を見てるとね」


「さーて、いつ来るんだろうな」


「蝉丸、あまり夕利の邪魔をしない方が良いよ。前ちょっかいを出して夕利に怒られたでしょ」


「あの時の夕利の目はめっちゃ恐かったなぁ。俺、ちびるかと思ったぜ」


「…ちびるんじゃなくて漏らせば良かったのにな」


「んだとぉ!」


話題に付いて行けず、すっかり置いてきぼりにされている蒼紫は三人の会話を元に予測した。


(…夕利さんとって大事な人が近々ここに来て、夕利さんはそれを楽しみにしている…)


のような感じだろうか。
その夕利は椿の小刀を左手の苦無で受け止めた。何故左手と思って右手を見ると、白くて細い指の間に苦無を四本挟んでいた。
そしてそれを


『貫殺飛苦無!!』


おもいっきり四人に向けて投げた。竜二と戰矢は紙一重で避けて、桔梗は自分に飛んで来た苦無と蒼紫に飛んで来た苦無を持っていた苦無で弾き返した。


『……チッ』


「あっあいつ、舌打ちしやがった」


椿の手合わせを終えた後蒼紫に襲い掛かって来たのは、蒼紫でも避けられるように加減された苦無だった。
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