□漆拾陸話「四乃森蒼紫」
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『…今日…なんですか?四乃森家の子が来るのが』


夕利は無表情で訊いた。

早朝、一ヶ月前に始めて習慣になって来た散歩の最中、夕利は空を見ていた。雲一つない晴天は見ていててとても気持ちが良い。ずっと見ていたかったが、いつの間にか背後に人がいるのに気付いた。


『…御頭、気配を消して人の背後に立つのは止めて下さい』


「そうは言ってもこれは隠密の癖だからどうにも出来んな」


振り向くとやっぱり御頭で腕を組んで立っていた。様々な訓練を受けてより人の気配に気付けるようになった夕利だが、未だに御頭と翁だけは気付くのが遅れてしまう。


『今日行う任務に何か変更点でもありました?』


「いやそうじゃない。
…というか、俺がお前に話し掛ける内容が全て任務の事とは限らんぞ」


『…気付いたら任務の話をしている事があるのでそう思ってしまい…』


「まあ確かにそうかもな。とりあえずそれは置いといて実はな、今日親戚の子供がここに入って来るんだ」


それで最初のに戻る。いきなり言われて夕利は内心驚いたが、人を驚かすのが好きな御頭らしいと思って溜め息を付いた。


『…それで、うちは今日から御頭からではなく翁さんに教えて貰うと』


「何故そうなる」


『そう思ったのはうちがいたらその子供に御頭の指導が集中出来ないからです。血は薄いですけど、四乃森家は御頭になれる家。御頭になれるという事は、御頭になる程の技と知を備えていなければならないって事ですから、御頭が彼に教えるのでしょう?』


「確かに教えるのは俺だ。だがお前は今のままだ」


『?何故ですか』


「何故だと思う?」


ニッと笑い、逆に訊いた。夕利は少し考えて答えらしきものを口にした。


『…御頭が忙しい身だから教えられない時にうちが代わりに彼に教えて欲しいから…ですか?』


「それも理由の一つだ。もう一つは、お前が自分と同じくらいの歳の子供となれさせる為だ」


今の所、夕利が御庭番衆の中で一番年齢が低い。だからかと納得出来た。


「お前ぐらいの歳は同年代の子供と遊ぶ時期だ。流石に遊び惚けろとは言わないが息抜き程度で遊べ。今の子供は何が好きか分かるぞ」


『分かりました』


「さて…己の鍛練に集中したくなるお前に命じる」


少し緩んでいた気や表情が引き締まり、威厳が増す。直ぐに夕利は片膝を付いて頭を垂れた。



「四乃森蒼紫を使えるようにせよ」




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