□伍拾肆話「話す」
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夢から覚めた夕利はボーッとしていた。顔だけ動かして時計を見ると朝をとっくに過ぎて昼になっていた。


『…寝過ごしたしあの夢見たし、もう最悪だ……』


落ち込んでいられないのは分かっている。だが、体が重くて動かない。諦めた夕利は目を閉じた。


(…うちよりも後から来た緋村さんの方が落ち込んでいるだろうな………)







……“後から来た”…?







そこに疑問を持った夕利は目を開けた。


『…そう言えば、なんであの場にいなかったんだ?

例え緋村さんが奮闘していて予定が狂ったとしても、赤べこや前川道場、署長さんの家を襲撃したようにしつこく陰湿に、そして確実に緋村さんを追い詰めていたのになんで人誅の集大成である薫さんの殺害を緋村さんの前で、いや…誰にも見せないでしたんだ?
…巴さんに対するあの異常な執着から考えるとおかしいな…』


手に力を入れて夕利は何とか体を起こした。疑い出すと止まらない。


『…仮に薫さんが生きていたとして、なんで縁は薫さんを殺さなかったんだ?もしうちが縁なら悪いけど邪魔だから殺すのに、なんでだ……』


夕利は額に手を当てて頭の中の情報を出し入れしながら考える。考えて行く内に、ある推測が出来た。


『……うん、これかも知れない。縁が何故薫さんを殺さなかったのは。…いや…“殺せなかった”のは。

…そうだよな、アレならしょうがない…』


夕利はフッと自嘲の笑みを漏らした。


『さて…ご飯を食べたら斎藤さんの所に行く前に保管室に行くか』


心にぽっかり開いた穴が徐々に埋まって行く。安堵と言う感情によって。前髪を後ろに掻き上げると夕利は寝室を出た。その背中に悲しみは微塵もなかった。
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