□肆拾捌話「帰」
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京都出発当日、斎藤と夕利と張は警察署の前にいた。


「二人とも京都を救ってくれてありがとう。儂らはこの恩を一生忘れん」


『そんな、一生だなんて大袈裟ですよ』


「いや、君達がいなかったら恐らく京都は焼け野原になっておった。それを防いでくれた事は大きい」


時間が気になった斎藤は夕利に聞くとそろそろ馬車に乗らなければいけない時間だった。


「そろそろ馬車に乗らなければいけないので私達は行きます」


「おお、もうそんな時間なのか。また会える日を楽しみにしてるぞ」


『ええ、ではありがとうございました』


微笑みながら署長に頭を下げると馬車に乗り込んだ。


「…やはり京都を離れるのは惜しいか?」


煙草を吸おうと上着からマッチを取り出した斎藤はずっと外の景色を眺めている夕利を見た。次々と景色は移り変わって行く。


『少し』


頬杖を付いて窓から顔を逸さず夕利は簡潔に答えた。斎藤はそれを一瞥すると火を付けて煙草を吸う。フゥ…っと嫌がらせで張に向かって煙を吐いた。


「ゲホッゲホゲホ!…くらあ!何するんや!!」


「………」


「…無視かい。あんさん、姐さんに構ってもらえんからってワイに当たるな!」


その言葉に反応して夕利はやっと窓から目を離し、きょとんとした顔で斎藤を見た。


『構って欲しいんですか?斎藤さん』


「いや…」


『ふぅーん』


顔を向けず静かに煙を吐く斎藤をちらっと見ると夕利はまた窓の方に目を向けた。それを止めずに斎藤は煙草をスパスパ吸う。

二人が黙っている為、重い沈黙が張を襲う。なんとか我慢していたが彼は関西人。賑やかな空気の方に慣れている為、静かで重い空気に堪えられないのだ。ぷるぷる震えた後、ア゛ーっと声をあげた。


「なんやあんさんら!何か喋ったらどうや!」


「『………』」


「…黙らんといてェ…」


「『…五月蝿い…』」


「…あーもう分かった。ワイは黙っておればええんやろ!」


プイッと顔を二人から逸らすと張はふて寝を始めた。夕利は目だけ動かしてそれを見届けるとまた窓に目を戻した。


(…自分の決意を破って京都に帰って来るかも。いや…実家に帰るかもしれない。

“アレ”を見ない為に…


心の闇を祓う為に…)




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