弐
□参拾話「拳の勝負」
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剣心が東京を出た翌々日、あまり雑用を残して京都に行くと、大久保が死んで精神的に参っている川路が倒れてしまう可能性があるので二人は雑用を片付けていた。とは言っても、ずっとやれる訳ではないので一息付こうと、斎藤は同じく雑用を片付けている夕利を見た。
「そう言えば、お前はいつ大久保と知り合った?」
『六年前ぐらいですね。旅をしながら皆の情報を集めていたら会ったんです』
「そうか。夕利、それ読み終わったら町に行くぞ」
『町?なんでです?』
「そろそろアイツらが動く」
“アイツら”が誰を差すのか理解した夕利は急いで報告書を読み終えた。
〜赤べこ〜
「ざけんじゃねェぞあのヤロウ!!!人に挨拶もしねェで勝手に出ていっちまいやがって!!!」
「お…落着いて。お願いだから店の物、壊さんといてェ」
何も言わないで出て行った剣心に左之は怒り、その怒りを剣心にぶつけられないので代わりに赤べこの備品に当たり散らしていく。妙が止めに入るが全く聞かない。
「俺も京都に行くぜ!一発ブン殴ってやらねェと気が済まねェ!!」
物に八つ当たりしたが晴れる筈がない。店の外に出て、くそ…!と溢した左之はそのまま出て行った。
「荒れてますね…」
「そやねェ、しかもまた食い逃げ。
それにしても剣心さんがまさか、また流浪人に戻るなんてなあ…てっきり、薫ちゃんの所に住みつくと思っとったんやけど」
剣心と薫二人の間にある空気は悪くなかった。そう思っていると後ろから弥彦に声を掛けられた。
「弥彦君」
「なあ、左之助見なかったか」
「ついさっきまでここで大暴れしてはったわ。そや、薫ちゃんの方はどうなん?」
「全くダメ。もう完全に腑抜けちまった。どうやら、面と向かってハッキリさよなら言われた様なんだ」
自分なりの言葉をかけて布団をひっぺがしても駄目だった薫の様子を思い浮かべながら弥彦は言葉を続けた。
「おまけに、この二日、何も口にしねェと来たもんだ」
「まあ…」
「とにかく二人も薫のヤツをなんとか元気づけてやってくれ」
「ええ、わかったわ」
それを聞くと弥彦は左之を探しに走り出し、その会話を影で聞いていた夕利は目を伏せた。
『…薫さん、大丈夫でしょうか』
「まあ俺達には関係ない事だろ」
同じく影で会話を聞いていたのに人事のように言った斎藤を見て夕利は溜め息をついた。
『ハァ…面と向かって別れを言われるのは結構キツイんですよ』
「じゃあ、もう会えないかもしれなかったのに告白された俺はなんだ?」
ハッとなって斎藤を見ると眉間に皺を寄せ、怒ったような顔をしていた。
『(…そうだ、うちも人の事が言えないな)…すみません…』
「謝るな。早々とあの小僧を追うぞ」
…