□ずっと隣に
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裏の仕事を終えた斎藤は川路に報告書を提出すると自室に戻った。
扉を開けると窓から月を眺めている夕利がいた。


「…宿家に帰らなかったのか?」


『まあね』


窓から離れると斎藤に近付いた。


「…何だ」


『隠しても無駄ですよ。
怪我してるでしょ?』


ビシッと夕利は斎藤の肩を指した。
それに面食らった顔をしたが直ぐに戻り、諦めた様に息を吐いた。


「ああ…」


『手当てしますから座って下さい』


夕利に促されて斎藤は部屋のソファに腰を下ろし、
その間に夕利は棚から薬と包帯を出す。
上着から煙草を取り出すと火を付けて吸い始めた。


「何故俺が怪我をしていると分かった…?」


『僕は斎藤さんのお世話をしてたんですよ?
直ぐに分かりますって』


苦笑いを浮かべた斎藤が煙を吐くとふわふわと煙が舞う。


『小姓たる者、直ぐに気付かなくちゃいけませんから』


「あの頃のお前は男と偽ってたな……」


『だってしょうがないじゃないですか。
女だって知らなかった近藤さんが僕を勧誘するから』


京都の町で悪さをしていた賊を一人で捕まえていた時
ちょうどその場にいた近藤はそれを見て感動し、女だと知らずに夕利を勧誘したのだ。
夕利は近藤の勢いに飲まれてしまって、つい頷いてしまった。
新撰組に入隊すると斎藤の小姓を務めた。

入隊後、暫くして女だと近藤と土方にばれてしまったが、その時は既に手は血に染まっていた。
「すまないすまない」と
近藤は何度も夕利に侘び、その後は皆に、もちろん斎藤にも真実を告げぬまま除隊したのだ。
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