相縁奇縁
□知り合い その三
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ピンポーン
【…誰だ…ってお前か】
『ええ、うちです』
【入って良いぜ】
『はーい』
後見人・育て親で、たまに顔を見せろという理由で呼びつけて来た比古清十郎に、来たと分かって貰えると夕利はインターホンから離れた。すると、後ろにいた斎藤を見たのか、なんだあいつも来てるのかと比古がぼやいた。比古のぼやきを聞いた斎藤は鍵を出す夕利の前に出てインターホンを覗き込んだ。
「当たり前だろうが阿呆。後見人だろうが育て親だろうが、お前はイマイチ信用出来ん」
【…フン、相変わらず夕利を束縛してるな。ここで話すのもなんだ、サッサと入れ】
「そうさせて貰う。夕利」
『…はいはい』
斎藤は、自分以外の男が夕利に絡むのを嫌がる。独占欲剥き出しの斎藤を見た夕利は持っていた合い鍵でドアを開けた。夕利は父親の遺言に従い、中一から高校卒業までこの家で剣心を含めた三人で暮らしていた。ここでの暮らしは良かった。比古が色々てきとうだったが剣心が代わりに気を利かせてくれたお陰で、酷い反抗期を迎える事なく比較的円満な生活を送れたからだ。
ドアを開けると、何の匂いか分からないが懐かしい匂いがする。それに頬を緩めていると、斎藤が早く中に入れと急かせた。二人でいつも比古がいる部屋に入ると、比古は酒を片手に既に飲んでいた。
『比古さん、また昼間からお酒飲んで。うちらは飲まないですよ』
「一仕事終えたばかりなんだ。好きにさせろ」
『…まったく、相変わらずなんだから』
比古は、昔は剣道の先生だったが今は趣味でやっている陶芸が評価されて陶芸家となっている。名は新津覚之進。作品を出せば必ず賞を取るほどなのだが比古が人前に出るのを嫌がるので顔は知られておらず、謎の人物とされていると、以前陶芸の本を立ち読みした時にそう書かれていた。
『うちは紅茶にしますけど一さんは?』
「俺は酒にする。飲まずにいると、腰抜けと言われそうだ」
「ホーウ、分かってるじゃねェか」
「それなりに長い付き合いだからな。嫌でもな」
「そいつはどーも」
『ハァ…程々にして下さいよ?分かってるでしょうけど、比古さんは蟒ですから』
「お前もだろうが夕利」
『うちは飲めば確かに酔いませんが、どちらかとお酒は苦手です。比古さんのせいですよ』
「へーへー。ついでに酒の摘まみも作って来い」
『……はいはーい』
蟒の比古による被害者はかなりいる。酒好きだが悪酔いする翁に飲ませて酔っ払わせ、それの介抱に葵屋の面々が付き合わされたり、下戸と自覚している蒼紫にしこたま飲ませてトラウマを植え付けさせたりと、挙げたらキリがない程だ。斎藤の事だから軽く付き合う程度だろう。それを信じて夕利は台所に入り、冷蔵庫を見て短時間で作れる摘まみを作り始めた。
「んで、上手くいってるか?」
「言われずとも上手くいってる。あいつを見れば分かるだろ」
「いつかその独占欲で嫌われるぞ」
「そうならないよう加減はしてる」
そう言い切った斎藤は、顎で棚を差した。飲みに付き合ってやるから、どこかにあるお猪口を出せと言いたいのだろう。比古は仕方なしに重い腰を上げ、棚からお猪口を出した。目の前に置くと斎藤は、ホウと溢した。
「素直に出して来るとは思わなかったな」
「あ?…まあ、これでも一応、お前には感謝してるからな。夕利に関してだけだが」
「フッ」
勝手に酒を注いだ斎藤は一口飲む。そんな斎藤を見た比古は、ホントになんで夕利はこいつを選んだんだろうなと思った。