相縁奇縁
□知り合い その二
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「剣心!夕利さんは二時に来るのよね?」
「そ、そうだが…」
時計を見て二時前である事を確認した薫をキッチンに向かった。
「紅茶とコーヒー良し!お菓子も良し!部屋もトイレも綺麗!」
駅員のように、声を出しながら指差し確認を行う薫。今日は、剣心にとって妹のような存在である夕利が遊びに来る日。十分過ぎる気合いを見て、剣心は苦笑混じりの微笑みを浮かべた。
「薫、そんなに身構えなくても」
「駄目!キチンとやらなくちゃ!…だって、もしかしたらお義姉(ねえ)さんになるかもしれないのに…」
「…ん?今なんて?」
「!ななななんでもないわ!あはははっ」
熱くなった顔を手の風で冷ましながら薫は一旦剣心から離れる。薫は時々こういう事をするので剣心は追及しなかった。二時まで後五分。そろそろかと思いながら時計を眺めていると、インターホンが鳴った。
「夕利さんだわ!」
「ちょ、せめて確認してから…」
剣心が呼び止めるも、薫は行ってしまう。駆け足の薫はいつもの二倍明るい笑顔で玄関の扉を開けた。
「はい、いらっしゃーい――って、なんで恵さんなのよ!」
「遊びに来ただけよ。…いつもそのくらい愛想良くしてくれると嬉しいんだけど?」
長い髪を耳にかける恵は一息付く。なんでも屋のような存在である剣心の噂を聞き付けて駆け込んだ事が縁で、それから何度も剣心目当てで遊びに来る恵に、薫は敵対心を抱いていた。
「今日は駄目!後で大事なお客さんが来るんだから!」
「大事なお客さんって、彼女の事?」
澄まし顔の恵の視線を追うと、気まずそうな顔をしている夕利が顔を出した。
『あはは…近くで手土産買ってたらたまたま会って…』
「〜〜〜」
恥をかかされたと思った薫は、キッと恵を睨み付ける。すると、確認しなかったあんたが悪いのよと、ごもっともな事を言われて薫は益々顔を赤くした。
「いらっしゃい、夕利に恵さん。ここで話していても仕方ないから、中にどうぞ」
「流石剣さん。それじゃあ、剣さんのお言葉に甘えてお邪魔しまーす」
「ぐぬぬ…」
『薫さん、これ、ゼリーなので後で皆で食べて』
「あっありがとうございます!わーこれ、最近駅前に出来た美味しいって噂の!」
『多めに買っておいたから、お客さんが来た時とかにどうぞ』
「お気遣いありがとうございます本当に」
『いーえ』
夕利は微笑むと中に入っていく。相変わらずの美笑を向けられて、薫はほぅっと余韻に浸る。とある事で剣心に出会い、剣心経由で夕利と知り合ったが、いつ見ても彼女は理想の女性だ。夫婦感も理想の形だ。お互い、相手以外の異性はまったく眼中にないのだから。
「薫、中に入ろう」
「う、うん」
背中に軽く手を添えられる。剣心は意識してなくても、薫にとってはそうではない。顔が熱くならないよう気を付けながら薫は剣心と共に戻った。