□龍が来たる
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夕利は町の外れにある掛茶屋に連れて行かれた。
龍馬は団子を、夕利は心太を頼んだ。


『何故私に声を掛けたんですか?』


女性なんてはそこら中にたくさんいる。なのに龍馬は夕利に声を掛けた。
質問に龍馬は一瞬きょとんとしたが、その後直ぐにニッと笑った。


「ただおんしに目が止まっただけじゃてぇ」


『………』


本当かと思って見るが、屈託のないその笑みの裏に何かあるとは思えない。
読めないので成程と吐息混じりで言った。


「夕利」


『?なんでしょう』


「……今の幕府をどう思う?」


太陽の様な明るい笑みがガラリと変わり、真剣な表情で夕利の顔を見る。
頼んだ品が来たが龍馬は一切手を付けないし目も向けない。ただ夕利の目を見つめる。


『…幕府を、ですか?』


「そうじゃ」


『…そうですね…』


幕府の味方である夕利だが、幕府に不満がない訳ではない。それなりにある。
だがその不満を膨らませたら討幕派の者と同じになってしまうので、言わないようにしているのだ。
でも今は許して下さいと心の中で言うと口を開いた。


『……外国に対して臆病になり過ぎてると思います。
このままでは中国の様に半分植民地になってしまう日が来るでしょう。
だから日本を生まれ変わらせる必要があります』


この考えは討幕派とほぼ同じ考えなのは百も承知だ。
だが夕利が考えているのは幕府を倒して生まれ変わらせるのではなく、
幕府を支え、周りが協力して生まれ変わらせるのだ。

幕府という大きな家の奥の奥に巣食っている、私利私欲の塊を追い出して
幕府を支えようという熱い熱意を持った者を引き入れて………







なんて出来ればどんなに良いか。理想を現実のものにするのは難しい。
現実の難しさに溜め息を付いていると手を捕まれた。
何だと思えば龍馬は目をキラキラさせていた。


「うん、やはりわしの目に狂いはなかったぜよ。
夕利、わしと一緒に日本を変えてみんか?」


…変えられるのなら変えたい。だが彼らの考えは幕府を倒す事から始まる。
きっぱり断るのは可哀想なので夕利は申し訳なさそうな表情をして言う。


『…すみません。
流石に今日初めて会った坂本さん達に付いて行く訳には行きません』


「!おお、それをすっかり忘れておった。
うーん…そうじゃなぁ…
ならわしはこれから毎日夕利に会いに行くぜよ。
そしたら初めてじゃなくなるじゃろ?」


『…まあそうですけど』


毎日かいと内心つっこむ。
なら決定じゃと笑いながら龍馬は団子を一つ食べた。
美味しそうに団子を食べる彼を見て、夕利は頼んだ心太に手を付けた。
さっぱりとした酢醤油の味が口の中に広がった。
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