□龍が来たる
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暫くして


「おんしは何を祈っておるんじゃ?」


…空気を読まない、知らない気配に話し掛けられた。
話し掛けて来た者は声からして男で、土佐の者。
薩長同盟の事があって土佐の者を快く思っていない。
どこの馬鹿だと思いながら瞼を上げて顔を見た。


「もし暇ならわしとお茶でも飲まんか?」


夕利と目が合うと男はニカッと明るく笑った。
日に焼けた浅黒い肌。
がっちりとした体格。
そして


(……拳銃を持っているな)


男から微かに火薬の臭いがする。する場所は胸元。
新撰組には大砲を扱う者がいるが、胸元だけしか火薬の臭いがする事はない。


『……どなたですか』


「ん?わしゃあ坂本っちゅうもんじゃ」


周りを見回してから言う。
坂本と聞いて夕利は片眉を吊り上げるのを堪えた。


『(…原田さんと同じ臭いがする…)坂本さん?』


「おお。で、返事はどうじゃ?」


『そうですね…』


まさかここで坂本龍馬に会うとは思わなかった。
しかもナンパ付きで。
うーんと唸り、視線を上げて龍馬を見るとにこにこ笑って返事を待っていた。
まさか龍馬は夕利が敵である新撰組の女中とは知りもしないだろう。
彼を新撰組に渡せれば討幕派に大きな打撃を与える事が出来る。


『良いですよ。祈るのが終わったら暇ですし』


にこっと作り笑顔を向ける。夕利の返事を聞いて龍馬は嬉しそうに笑った。


「そうと決まれば行くぜよ。今更だがおんしの名前を教えてくれぬか?」


『夕利と言います』


「良い名じゃ」


ニカッと笑うと夕利の腕を取る。当然夕利はえっと思う。腕を取ると龍馬は歩き出した。


『坂本さん!ちゃんと隣を歩きますから離して下さい!』


「おなごをりーどするのが男の役目じゃきぃ。気にせんでええ」


(…やっぱり原田さんと同じ臭いがするしこの人…)


走り出したら止まらないところが似ている。
いや、とてつもなく馬鹿正直なところが似てる。
夕利の目的は龍馬を皆に引き渡す事。それまで我慢だと自分に言い聞かせた。
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