一
□除夕を越えて
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見ている限り変化がないので次第に飽きて来た。口に銜えていた煙草を手で持つと、首を左右上下に動かして筋肉をほぐす。するとボキッ、ボキッと鳴る。
(…ホウキ頭が帰って来たら押し付けるか)
張にとって酷い事を思いながら今度は水場に向かう。茶がまだが見に行く為だ。水場に行くと、お湯が沸くのを待っている夕利が目に入る。コポコポと土瓶から音がする。
さらりと揺れる黒髪にパチリと時々動く長い睫毛。夕利としてはただ立って待っているだけのつもりだろうけれど、何か人の目を惹き付けるものがある。昔からそうだが見ていて飽きない奴だ、そう思っていると夕利が口を開いた。
『…視線が痛いんですけど……』
斎藤に無言で見られていると辛い。漸く夕利は視線を土瓶から斎藤に向けた。
『そう言えば贈り物、何が良いですか?』
「は?」
なんでその話になるんだと思っていると夕利は苦笑した。
『自分の誕生日が近いじゃないですか。もしかして忘れてました?』
「…ああそうだったな」
誕生日が来たからと言って何かある訳ではない。あると言ったら一気に来る、書類と仕事ぐらいだ。
「ならお前が良い」
『……………はい?』
予想外の答え過ぎて夕利は理解するのが遅れた。理解すると顔を赤くする。
『…いやあの…普通に何かありませんか?それにうちは物じゃないですし』
「ぁあ?何言ってやがる。お前は俺のモノじゃないのか?なあ夕利」
『(…なんつー恥ずかしくなる事を……)
…考えて置きます』
「寧ろそれは今が良いな」
逃げようと後退る夕利を捕まえて引き寄せた。クイッと指で顎を上げると口付けた。最初は抵抗する夕利だが、少しして直ぐに堕ちるのは知っている。斎藤は十分に甘い唇を味わう。一度離すと斎藤は物欲しそうな目をした。
「……夕利…」
駄目か?と目で訴える。夕利は強引なのも、こう言う可愛らしい甘えにも弱いのも斎藤は知っている。斎藤の予想通り、夕利は荒く呼吸をして顔を真っ赤にさせながら困惑した表情を浮かべている。後一押しかと思って唇を近付けると
ピーーーッ
…水が沸騰し、土瓶から湯気が噴き出している。我に返った夕利は手で斎藤の口を塞いだ。
『はーいはい。今お茶を入れますから座って待ってて下さいね、斎藤さーん?』
「…………チッ」
今初めて土瓶を壊したいと思った斎藤がいた。