□肆拾玖話「襲撃」
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『斎藤さん、昨日の事は折れます。だから外出許可を下さい』


前川道場と署長の家が襲撃を受けていると報告が入ると、夕利は真剣な顔で斎藤に頼んだ。


「…どっちに行くつもりだ。それにお前が行く必要はないだろ。抜刀斎達が向かっているだろうからな」


『行くとしたら署長さんの方に行きます。斎藤さん、うちが緋村さん達に見つかるようなドジをすると思いますか?それにこんな大きな襲撃なら、恐らく今回の首謀者が顔を出す筈です』


だからお願いしますと夕利は深々と頭を下げた。


「………首謀者の顔と名前、重要事項が分かったら直ぐに戻って来い」


『ありがとうございます。では行って来ます』


安心させるように斎藤に向かって微笑むと夕利は急いで署長の家に向かった。















夕利は急いで署長の家に向かっていた。風に乗ってどこからか血の臭いがする。


(どうか生きてて!)


後十何メートルで着くという距離であの風切り音が聞こえた。夕利は思わず足を止めた。


『まさか署長さんの家に!?』


眩しい光の球が空から降って来て、それは見事に署長の家に命中した。激しい爆風と共に煙が起こる。安否を確認しようと家に近付こうとしたが、知っている気配が意外に近くにいたので、夕利は急いで気配を消して物影に隠れた。

危機一髪で攻撃から免れた剣心は署長を抱えて爆煙から出て来た。


「お父さん!」


「大丈夫でござる。ただ気を失って…」


荒く呼吸をしながら剣心は言ったが、署長の娘はそれに耳を傾けず、署長に駆け寄った。


「なんで…こんなヒドイ…
お父さんが…あたしたちが何をしたっていうの…」



なんで…なんで、こんな目に…



…その言葉が重くのし掛かったのか、剣心は暗い表情で姿を消す。剣心がいなくなると夕利は物影に隠れるのを止め、署長の娘に駆け寄った。


『怪我はありませんか?直ぐに救護班が来ますから』


「…ねぇ…教えて下さい。あたしたちが何をしたっていうの。教えて下さい!」


娘は夕利の胸元をきつめに掴んで問掛ける。剣心に関わったからとは言えなくて、今その理由を探していますと返した。


「なんで…なんでよ……」


ぎゅっと更に掴むと消え入るような声で胸元にしがみ付いて泣き始める。夕利は辛そうな顔で娘の頭を優しく撫でた。暫くして救護班が駆け付け、署長は運ばれて行った。悲しそうな署長の家族の背中を見送ると夕利は静かに目を閉じ、剣心の気配を探した。















 なんで…こんなヒドイ…
お父さんが…あたしたちが何をしたっていうの…




(理由は「人斬り抜刀斎」に関わったから――)


夜が明けて小鳥が囀る中、剣心は暗い表情で川に沿って歩いていた。


(前川道場も…赤べこも…無差別に近い程理不尽な猛襲と破壊。次こそは必ず喰いとめる。だが、その後はどうすればいい?この闘いはこれまでの闘いのように相手を止めれば…倒せばそれで済むという闘いとは違う。乙和とか言う男の言によれば相手は全部で六人。そしておそらく程度の差が有れ、六人は六人。“人誅”という正義の下、拙者を仇とする復讐者。

始まりは拙者の…
「人斬り」としての罪――

どうすれば拙者は許される?謝罪か?死か?それとも全く別の…何か――)


橋を見ると朝日を背に男が一人立っていた。朝日が眩しくて剣心は手で目元を隠しながら男の顔を見た。


(――誰だ…?――)


口を固く結ぶ男は冷たく剣心を見下す。暫く見ていると男の隣に少年が見えた。最後に見た時と変わらない、真っ白な髪…


「お前は………縁…」


そして少年の隣には悲しそうな表情をした女性…


巴!!


はっとして見れば少年の影はなく、当然女性の影もない。


「どうした抜刀斎?姉さんの幻でも見えたのカ?クク…そうだろう。姉さんは常に俺と共にいる。今も、これからもずっと。だがな抜刀斎。

お前には姉さんの幻を見る資格などないンだ!!


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