流加伊演義

□第五節「顔合わせ・上」
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瀧波夕利…斎藤一、四乃森蒼紫、比古清十郎等の猛者達と深く関わっており、女人であっても猛者になり得るとの事で猛者人別帳に書かれている稀有な存在(備考欄ではないので本当に稀有である)。幕末の江戸では最年少で御庭番衆御頭から名を与えられ、密偵方“小姫”として活動。御庭番衆を辞めた後に京に渡り、両親を夜盗に斬殺される。夜盗全員を斬殺した後、身柄を保護した新撰組の女中として数年潜伏し、一ヶ月、佐幕派の人斬り 華阿修羅として活動していた。特殊なのは“気配”で実際に視ずとも辺りを探れる、との事だったが…


「…まさか、この距離からこっちの視線に気づくとはねぇ。読唇術が使えると分かった上でご苦労様ですって口パクで言われた」


「恐らく、昨夜ので我々の気配とやらを覚えたのだろう。“気配読み”、思っていた以上に厄介だな」


「ありゃ劍客兵器(俺たち)と変わらないだろ」


「…あの性能なら、本陣を特定し兼ねない。早めに潰しておきたいものだ」









「何か感じたか?」


『山頂から視線を感じました。やはり上を取られたままなのは痛いですね』


五稜郭内を探ると、付近にいる劍客兵器の気配は一つのみ。凍座のものだろう。斎藤はそうかと返すと、夕利と永倉を本部に案内して隊長代理の大垣と引き合わせた。
大垣を一目見て、確かに典型的だなと夕利は思った。永倉が自己紹介を終えて夕利の番になると、大垣は面倒臭そうに、迷惑そうに片眉を上げた。察しが良い斎藤が代わりに夕利を紹介した。


「なるほど。しかし困りますなぁ。ここはこの通り男所帯なので、あまり出歩かれると隊員たちの戦意と集中力が削がれてしまいます」


『この仕事には長く就いていますので、基本的には割り当てられた部屋で大人しく作業しています。…とは言え、私も一応警視庁より特務担当に任命されてここに派遣された身なので一つ了解して頂きたいのは、もし私が一人で外を歩いていたら、藤田さんからの命令だと思って下さればと』


「フン…ひとまず了解しました」


『ありがとうございます』


「では宿舎にご案内しましょう。三島!」


「はい!」


入口で待機していた栄次が元気な返事と共に入って来て大垣に敬礼をする。こちらを向くと、栄次は嬉しさを噛み締めるような顔で敬礼した。


「今日から宜しくお願いします、先生。…お久しぶりですね夕利先生。あれから五年も経ったと言うのに、お綺麗なままで…」


『お久しぶりです。咄嗟にお世辞が言えるほどの成長が見れて嬉しいですよ三島君』


「お、お世辞だなんて!」


つい声の音量をあげた栄次は、ハッとした表情を見せる。それもそうだろう。ここにいるのは目上の者ばかりで、特に夕利の夫である斎藤の前で口説きまがいな事は言えない。瞬時に冷静になった栄次がお世辞ですと言い直すと、永倉の視線から


(相変わらず人たらしだなお前〜)


という声が聞こえて大垣が、これだから女がいるのは面倒なんだと小声で言うのが聞こえた。

本部を出てすぐに夕利は栄次を呼び止めた。


『三島君、宿舎に行く前に凍座さんを収容している牢に行っても良いですか。本部で話している間に劍客兵器の一人が山を下りて牢にいます』


「!わ、わかりました。案内します」


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