流加伊演義

□第四節「碧血碑」
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函館山、山麓北東部。整備されている山道を歩いていると頭上を気配が通った。以前、顔を見たので気配を覚えている。十本刀、飛翔の蝙也だ。刀狩の張と、大鎌の鎌足の気配もあるという事は、斎藤が招集したのだろう。


(相変わらず仕事が早いな、あの人は)


「あっ!今、上を通って行ったの、蝙也さんじゃないです?」


『ええ。恐らく、斎藤さんが招集したかと』


「へー」


『因みに、彼は瀬田さんと悠久山さんと同じ一派で、その飛行能力を買われて政府に一先ず協力してます』


「説明ありがとな夕利」


『いえ』


黙々と歩いていると、山中ではあり得ない騒がしい声が聞こえる。この雰囲気も相変わらずだなと思っていると、斎藤がこちらに気付いたようだ。


「来たぞ。本命の“猛者”達だ」


笠を被っていても、視線が一斉に集まるのを感じる。手前にいた少年少女三人の間を通って階段を上がる。すると左之が安慈の元へ、宗次郎は自ら剣心の元へ行く。夕利と永倉は奥にいる斎藤の元へ歩いて行く。


「ところで、あの人誰です?夕利さんの知り合いみたいですし、幕末の生き残りだと思うんですけど――…」


注目が集まる中、夕利は笠を取った。


『“明王”の護送、“天剣”の回収、完了しました』


「ああ」


「よう、相変わらず、肩肘張って生きてるかい」


「道中、御疲れ様です」


「そこは御苦労様だろう。いやしかし、俺の方が年長だからかい?京都では同格だったが、北海道ではお前が隊長だよ」


そうなると夕利は副隊長だなと、にかっと笑いながら笠を取る永倉。永倉の顔を見て、剣心は心底驚いた声色で言う。


「!永倉、新八!!」


「よう。お前も相変わらず、クッソ真面目に生きてるかい」


「やっぱり知り合いでしたね」


「何者だ」


「斎藤と同じ、壬生の狼――」


簡単だが永倉の説明を言いながら歩く剣心に、こちら三人はどう映っているのだろう。警官と旅衣装の者か、浅黄色の羽織を着る新撰組と藍色の羽織を着る人斬りか…

剣心が側に来ると永倉は懐かしむように目を閉じる。


「かつてはあの運命の池田屋で死闘を繰り広げた俺達四人。生きてまた再会出来たのも、また何かの運命――」


「いや…俺は池田屋には参戦してない」


「あれ?」


「拙者も、出撃許可が下りなかったでござる」


「そだっけ?」


『私もその時、活動してませんよ』


「あーーー…まあまあまあまあ!!俺が言いたいのは、お互い生きてて良かったというコトよ!」


(相変わらず…)


(大味な人だ…)


(永倉さん、頭の中の情報がかなりごちゃごちゃしてるな。大丈夫か…?)


斎藤と剣心の肩をガシィッと掴んだ後、夕利の頭を撫でる。


「俺もお前達も、ここにいる全員、どうせ死んだら地獄行きの罪人!生きてる今のうちから仲良くしても罰は当たらねえ!俺達全員、今日から仲良し同士だ!」


頭を撫でる永倉の手を斎藤に止めて貰い、髪を直す。直しながらさりげなく少年少女に視線を向ける。三人共、剣心達が東京にいる間に神谷道場に世話になっていて、大まかな生い立ちは調べた。旭と阿爛は落ち込んでいるのに対し、明日郎は目をギラギラさせていた。


(あのただならぬ気配は確かに無限刃…刀に選ばれたか…)


「隊長は斎藤!副隊長は緋村と夕利!
ホラ!お前等からも一言!!」


慣れた感じで仲間を認識させ、隊長と副隊長を決める永倉。やや強引な流れに溜め息を付きつつ斎藤は口を開く。


「この碑の名にある碧血――碧血とは、“忠義を貫いて死んだ者の血は、地中で三年を経て碧玉になる”という中国の伝説にちなんだ言葉。だが俺達は、永倉さんの言う通り、死ぬば地獄行きの者達。この地に眠る者達の様な、忠も義も一欠片たりとも求めない。求めるのは悪・即・斬。この北海道の何処かに巣喰う賊、劍客兵器を探し出し斃せ!」


『もはや数字と歴史と化した人々の犠牲によって創られた、この上辺だけの平和。その犠牲者になれとは言いません。ただ、力を貸して下さい』


「まずは劍客兵器の企む実検戦闘を喰い止める。皆々、宜しく頼むでござる」



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