流加伊演義

□第二節「合流」
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「……」


永倉の、不審そうな視線を感じる。それもそうだろう。普通に考えたら囚人は枷を付けたがらないだろうし、付ける方も攻撃を警戒しないのはおかしい。鉄球付き手枷も付け終わった所で漸く永倉は口を開いた。


「お互い、やけに信用してるな」


『まあ、彼は本当に自分がしたくない事には全力で抵抗しますし、その前にきちんと言ってくれますからね。その点は信用しています』


「夕利殿は無意味な殺生を好まぬ。が、その夕利殿が甘言なしに命を差し出せと言ったのだ。そう言わざる得ない、危機迫った事が起きているのだろう。大罪の身であっても必要とされるのであれば、応えるのみ」


暗闇の中でも、安慈は真っ直ぐな目でこちらを見つめて来る。夕利は大袈裟に肩を竦めた。


『話した時間は短いのに、随分と持ち上げますね』


「時間の長さが全てとは限らぬ」


「夕利、浮気するなよー」


『…杉村さん。お互い、その気はないので茶化しだとしてもその発言は失礼ですよ。疚しい事は何もないのであの人に言っても良いですけど、拗れたら奥方さんに色々言いますからね』


「は?なんでそうなるだよ!」


『さて、長話が過ぎたのでそろそろ行きますよ。気付かれて追って来られたら不意打ちがパァになります』


「…夕利お前、ホント斎藤に似て来たな」













〜函館〜

翌朝。捕らえた凍座白也の尋問を行う為、剣心と左之は栄次の案内で五稜郭に向かっていた。当たり障りのない話をした後、剣心は昨日栄次に訊きそびれていた質問を言った。


「そう言えば、夕利殿はどうしているでござる?斎藤と共に北海道にいると聞いていたが」


「!…そうか、あいつがいるんだったら夕利もいるのか」


「左之、先に言うでござるが夕利殿は斎藤と結婚している。以前のようなちょっかいは出さぬように」


「ハァ!?夕利がッ!アノヤロウと!!?」


「おろろろろ!」


ふざけるな羨ましいと、左之は剣心の胸倉を掴んでガクガク揺らす。なんとか止めさせて栄次を見ると、複雑そうな顔をしていた。


「…斎藤先生の話によれば、夕利さんには別の任務を頼んでいるそうです。だからあの時斎藤先生の側にいませんでしたし、俺もまだ、顔を合わせていません…」


(成程、そう言う事か。夕利殿を行かせたとなると、余程重要な一件なのだろう。…しかし、栄次の表情が気になる……あっ)


思考を巡らせると、ある事を思い出した。それは、新月村を出た栄次がどこに預けられていたのかだ。場所が場所だけに、剣心は珍しく困り顔になった。それに、成長して察しが良くなった栄次は気付いて申し訳なさそうに微笑った。


「…斎藤先生の元奥様が言ってました。斎藤先生はいつだって、日本の為に戦場へと駆けて行く。それに付いて行けるのは、同じく戦場を駆け抜けられる人だと」


「すまぬ栄次。次からは気を付けるでござる」


「お気になさらないで下さい。避けていても、夕利さんが任務から戻れば顔を合わせるんですから」


二人の話を聞いていて、どういう事なのか分からない左之が剣心に訊く。剣心は後程話すと答え、前へと歩を進めた。







『…へっきしっ』


「大丈夫か?少しくらい休んだっていいんだぞ?」


『誰かが私の話をしているだけみたいなので大丈夫です』


肩に置かれた永倉の手をするりと下ろした夕利は笑って見せた。
己の事は己が一番分かっている。一刻も早く斎藤の下に行くのを第一としつつも気を詰め過ぎず、体力を温存するやり方と取り続けていればいい。


『早く着きましょう、あの人のいる函館へ』


前を向けば編笠越しでも分かる眩しい日差しが差す。着実に函館へと近付く三人の上には、やけに綺麗な青空があった。



第二節 完
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