流加伊演義

□第一節「流加伊演義」
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明治十六年、春――


「チィースッ、来たよぉーー!!」


「操ちゃん!」


「ウィースッ!みんなで集まって上野で花見!天気も晴れでいいねェ!!」


春と言えば桜。それで満開となれば花見をするのは当然。日にちを合わせて集まった剣心組の面々は上野にいた。


「操殿は相変わらず元気でござるな」


「おー!元気っスッ!!」


ピースサインを見せた操は薫が抱き抱えている剣路の顔を見に行った。その後ろ姿を見ていた剣心に蒼紫が近付く。


「――頼まれた件…とりあえず調べがついた。

斎藤一。あの男は今は北海道にいるらしい…。今度は何の任務かまではつかめなかったが、変わらず健在なのは確かだ」


二人の脳裏に、雪降る厳しい寒さの中でも煙草を吹かす斎藤の後ろ姿が浮かんだ。


「…今になって決着をつける気にでもなったか?」


「まさか…健在ならそれでいいでござる。そうなると、夕利殿も北海道に?」


「…ああ。夫婦となると普通、公私混同する可能性があると離される事が多いが共に優秀で、混同させる素振りが見られない。更には組んだ方が事件解決の速度が早まるとあって、変わらず斎藤に付いているそうだ」


蒼紫は、もう五年も顔を見ていない初恋の相手に想いを馳せる。長年の付き合いで、蒼紫にとって夕利は特別な存在である事を知っている剣心はそのままにして置いた。


「あの二人が一番、危険の中にその身を置いているな」


「……そうだな」













数ヵ月後。函館にて――


「夕利、今から樺戸に向かえ。そして永倉さんと合流し、収容されている“明王”を連れて戻って来い」


『…最近、函館山(上)の動きが怪しいのに離れて大丈夫ですか?それに、永倉さんなら一人で彼を説得して連れて来れると思うんですが』


「念には念を入れてだ。それに、お前がいれば永倉さんは寄り道しないだろうし、途中経過を電信で知らせられてしかも最短距離で戻って来れるだろ」


『…そう、かもしれませんが…』


「…夕利」


不安そうな夕利に近付いた斎藤は目を合わせた。


「俺を信じろ」


『…分かりました、信じます。では急いで準備して来ますね』


「永倉さんには電信で伝えてある。行きは馬車を使え。帰りはお前に任せる」


『分かりました。行く前に顔を出しますから、何か追加事項があったら言って下さいね』


「ああ」


荷物の他に、馬車の手配をしなければならないので一旦部屋を出る。扉を閉めると、夕利は扉の向こうにいる斎藤を見つめた。


(胸騒ぎがする…うちが戻って来るまで何も起きなければいいけど…)


不安を抱えていても仕方がない。斎藤を信じると言ったのだから。不安を振り払うように夕利は素早く振り向き、樺戸へ向かう準備を始めたのだった。



第一節 完
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