京極
□最後の願い
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ある日、作者も題も記されていない、表紙が真っ白な本を見つけた。
訝しく思い開くと、小さな人が居た。
誰何すれば、紙魚だと応えた。
紙魚は何処からか出した、それは大きな─こちらから見れば、小銭入れ程度だ─革で出来た茶褐色のトランクを持っていた。
必要な物はそれに入っているらしく、夜は開いたトランクの片側に、栗鼠のように丸まって眠った。
トランクの外側には、小さな字で関口巽と縫いつけてあったので、試しに関口と呼んでみた。
すると紙魚は困ったような、泣き出しそうな顔で、どうやら微笑んだらしかった。
これからは、紙魚を関口と呼ぶことにした。