俺屍小説
□06ふたり
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紫雲(しうん)一族の当主、叶(かなえ)はぼんやりと縁側に腰掛け空を眺めていた。
先月、娘の葵(あおい)と共に鳥居千万宮へ足を運んだ。しかし二人は、いつの間にか敵を倒しながら、奥へ奥へと進み過ぎてしまったのだった。
その所為で、最悪な事に葵も叶もあっさりと敵にやられ敗走したのだった。
「父上、まだ千万宮での事を考えていらっしゃるのですか?」
不意に降りてきた娘の声に、叶はゆっくりと顔をあげる。前回の戦いで付いた腕の傷が痛々しい。
「……」
「父上?私、気にしてませんよ。命があったのです。こんな傷、勲章ですよ」
隣に腰掛け、葵は傷付いた腕を大事そうに摩った。元々、彼女は感情の起伏が激しい方ではない上に、滅多な事では感情を表に出さない。
そんな彼女が表情をゆるめ微笑む。それを見た叶は眉根を寄せた。悲しむ様な、辛そうな表情で葵を見つめる。
「父上、そんな顔なさらないでください」
「…すまない、葵」
彼は娘の手を握り、頭を下げた。そして…。
「弟と妹、どっちが良い?」
「…は?」
葵は目が点になり、子供っぽく笑う父親を呆然と眺めた。
「ん?だって、ふたりだとキツイだろ。今月俺交神するからさ、葵は弟と妹どっちが良いかな〜?って…って。アレ?あお…い?」
顔を伏せ、肩をブルブルと震わせた。しかし、次に顔を上げた葵の瞳は殺意の焔が灯っていた。
「…葵?」
「父上…」
スッ…と蒼い瞳を細め、葵は何処から取り出したのか自分の得物を取り出し、父親である叶にその切っ先を向けた。
「ちょっ、何をするんだ葵!?」
「お黙りなさい!娘に何て事を尋ねるのですか!!そこになおりなさい!!」
「ギャーーーーッ!!本気でかかって来るなーーーー!」
その二ヶ月後、紫雲一族に一人の男の子が増えたのであった…。
『06ふたり』 終
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