あんだー
□鎖
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何が起きたか、一瞬分からなかった。
キリさんに引きずられる様に引っ張られて部屋へと無理矢理引き込まれる。顔を見せないが、キリさんは確実に怒っていた。怒っているなんてものじゃないかもしれない。憤怒、確実に憤っている。掴まれた手も痛くてズキズキするけど、キリさんの怒りの理由が分からなくて、それを考えるので頭がいっぱいだった。
引き込まれたかと思うと手が離されて部屋の奥へと叩き付けるように追いやられる。
その時に見たキリさんの顔は、今まで見たことのない、冷たい目をしていて、
「っ…ゲホッ…ゲホッ、っうぅ…っ」
手が離されたことにより起こる発作に肩が動く。口元に手をやって抑えることの出来ない咳、痛む胸、手を伸ばすことは出来ない、キリさんは怒っている。私の手を離すくらいに。殺したいくらい怒っているのだろうか、私は何をしたんだろうか。その考えを口にしたら、キリさんはもっと怒るかもしれない、
嗚呼、意識が…
「っぐ…ゲホッ…うぅ、」
「なぁ、アンタ」
「っあ…、はぁ、はぁ、…なん、で…」
意識が飛ぶ、嗚呼死ぬ…という時にキリさんに腕を掴まれ無理矢理意識を繋がれる。腕を掴まれたら壁に押し付けられ、キリさんはその怒りの表情のまま、薄く笑いながら顔を近付けてくる。
「キリさ…」
「アンタは誰のものだ?」
「っ?」
「アンタ、は誰の、ものだ?って聞いてんだけど?」
ギリッと軋む音さえする腕に激しい痛み、そしてキリさんの恐怖に涙が出てくる。
「ひぅ…うっ…」
「泣いてちゃわかんねーだろ」
「ごめ、なさ…」
「他の男とベラベラ喋っちゃってさ、自分の身分分かってんの?」
その言葉でハッとする。そういえばお祭りの準備で広場に行ったとき、キリさんの同学年の男の子と喋ったのを覚えている。
『へぇー、エルレインって言うんだ!』
『可愛いね!』
『誰だよ、シスターはこえぇとか言ったやつ!』
流石はキリさんの友人と言うべきか、みんな人懐っこくて優しくて、言葉一つ一つが暖かかった。褒められるのは慣れてなくて、否定するしかなかったけど。でもそれでまさかキリさんがこんなになるなんて、
「アイツらも分かってないよね、」
「………っ」
「でも一番分かってないのはアンタだ、」
「ご…ごめ、んなさっ、」
アンタはオレが触ってなきゃもう死んでるんだよ、まぁそんなことで繋いでおくのも安心出来ないし。やっぱアンタがオレのものだってちゃんと自覚しててほしいんだよね、
「ねぇ、アンタは誰のものだ?」
「…キ、キリさ、んです…」
「うん。正解。もう分かるよね?」
「はい…っ」
優しく諭すような言葉なのに、どこか冷たくて、これは本当にキリさんなのかと錯覚までしそうだった。
掴まれていた腕が解放されて、ソッと指を絡められる。手首の痛みはまだ引かないけれど、ずっと掴まれているよりも確実にマシだった。キリさんの顔が見られなくて俯いてるしかない。
「エルー…、」
近付いてくる顔に何も言わずに応える。唇を吸われるように口付けられて、薄く開くとキリさんの舌が侵入してくる。受け入れなくてはならない。これはキリさんの愛だと、私は知っているから。
「愛してる、」
そう聞こえたから、もう私はキリさんの見えない鎖に束縛されていると実感した。
(キリさん、私はちゃんとあなたを愛していますよ…、)
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ドS全開キリ(´∀`)←
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