D.A-2
□涙
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(スイ→エル前提)
路地裏に隠れるように駆け込む。迷うわけは無いのに、どうにか迷ってほしいかのように……。雨がシトシトと降る中、そんな雨水の冷たさが、自分の汚い嫉妬も思いも全部凍えさせてしまうなんて、期待している。
でも、どうにも胸が苦しかった。
――――――――――
曇り空が広がる中バザーで安く売っていた小さくて甘いさくらんぼをある程度買い占め、雲行きを覗くともうすぐ降り出しそうな雰囲気だった。
そういえばキリとエルーはこの街に居るのは今日で最後だとか言って必要なものの買い出しに行ってた筈だ。
でもそれもずいぶん前の話。
今の時刻は夕方近い。もうそろそろ宿に戻ってるだろう…、と自分も宿の方角に踵を返した。
「(あ…、)」
帰り道兼バザーの道が続く中、好みの髪留めを見つけ立ち止まる。
「(エルーも髪が鬱陶しくなってきたって言ってたな…。)」
気付けば自分の気に入った髪留めの同じ奴を2つ購入していた。1つは自分の。1つはエルーのだった。あたしらしくないけど、とクスリと笑って、気さくな店番のおばさんにお礼を言う。
小さな屋根から出たとき、もう既にポツポツと雨が降り出してきていて、内心ヤバいな…、と思いつつ宿へ足を早めた。
「(確かこの角を右だった…)」
……と、少し入り込んだところの宿を選んでいたから、人通りも少なく、好意で部屋を貸してくれるような宿。
だからって――――…。
ああ、見たくなかった。
「ちょ、キリさん…っ、誰かが通ったらどうするんですか…」
「大丈夫だって!雨も降ってきてるし、誰も通らないよ。」
「でも……っん…、」
「……外でキスって興奮すんじゃんね。」
宿の玄関、屋根の下。
胸がいきなり痛んで、宛もなく走り出した。
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