おお振り
□初詣
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年が明けて新年。
去年は阿部の三橋に対する奇行に振り回され被害を被ったりもしたが、今年こそはそれが無くなれば…いや、少しでもマシになれば良いなと思いながら、西浦高校野球部主将、花井梓は道を歩いて居た。
向かうの先は西浦の地区に有る神社だ。
今日は野球部で初詣に行くことになって居る。
と言ってもマネージャーの篠岡は家族との予定が有るらしく、又モモカンはバイト、シガポも家族と過ごす為、実質集まるのは野球部男子だけだ。
約束の時間より少し前に着くように家を出て、一人神社に向かう。
一月。
冬特有の寒さ。
コートの前を首もとまで閉め、野球部員らしくむき出しの坊主頭にニットの帽子を被り、マフラーを首に巻き寒風を凌ぐ。
母親に折角だし晴れ着でも着たら?とか執拗に薦められたが断って来た。
高校生にもなって、という思も有ったが、他に誰も着てないだろうしからかわれるだけだと思ったからだ。
普段通りで良い。
約束していた時間の少し前に、神社の鳥居前に着く。
流石に元日となると参詣客が多く、邪魔にならないように出来るだけ端の方に立った。
周りを見渡すが、まだ誰も来て居ないようだ。
もしかしたら人が多くて見付けられないのかも知れないが。
「花井―!」
まだ誰も来て居ないことから、花井はとりあえず待ちの体勢に入って鳥居近くの木に背を預けた。
そんな花井に気付き、丁度着いたところなのだろう、水谷が軽く手を上げながら花井に声を掛けて走り寄る。
「おう、水谷」
「花井早いね」
「これでも早めに来たつもりなんだけど」
水谷と一緒に来たのか、西広も花井の元へ歩み寄る。
「家に居ると親がどうせなら晴れ着着ろとか五月蠅いからな、早めに出て来た」
「晴れ着…?着れば良かったのに」
「はぁ!?この年になって正月だから晴れ着とかないだろ!妹達に着せるからってオレにまで着せようとすんなって!」
花井は出掛ける前の母親との会話を思い出し、不快そうに言う。
女ならともかく、男に正月に晴れ着を強要しなくても良いだろ。
普通に男が正月に晴れ着を着るなんて考えられない。
「気持ちは解るけど、それは親に言いなよ」
「言ってもしつこく言ってくんだよ!」
「あはは、花井着れば良かったのに」
「っ〜〜…人事だと思って…んなに言うなら水谷が着てくりゃ良かっただろ?」
「うっ…それは勘弁」
水谷は花井の話を聞いて晴れ着姿の花井を想像して笑うが、花井の言葉に自分が着るのは嫌だと嫌そうに眉を寄せる。
「それにしてもまだ時間有るし、きっと遅れて来る奴も居るよね?」
「オレは水谷は絶対遅れると思ってたけど?」
「ひでー!」
「よー!花井、水谷、西広!あけおめ!」
「うわっ!?田島!?いきなり飛び付くな!」
西広の機転で話を変えられながらも、水谷をからかい返していた花井の背中に、勢い良く走って来た田島が飛び付く。
花井は油断して居たためバランスを崩しかけるが、何とか踏みとどまると、田島を追って来たのか三橋が駆け寄って来た。
「あ…あけ、まして…お、おめでとう…花井、くん…水谷、くん…に、西広くん…」
「あけましておめでとう、皆今年もよろしく」
「皆早いな―、早めに来たつもりだったけど、花井達の方が先だったんだ?」
「新年早々騒いでるな」
「よっ!あけおめ…後来てないのは…阿部だけか」
三橋に続き沖、栄口、巣山、泉も花井達の元へと集まると、泉がメンバーを確認する。
まだ来てないのは阿部だけのようだ。
「お!あけおめ―…やっぱり皆晴れ着は着ないんだ?」
「晴れ着…?普通着ねぇだろ」
「いや、花井が親に着ろって言われたらしくてさ―」
「水谷っ!んなこと言わなくて良い!つか言うなっ!」
「ん?何、花井晴れ着着んの?」
「だから着ねぇって!つーかいつまでくっついてんだよ、降りろ!」
集まったメンバーの服を見た水谷が、普段通りの格好に落胆したように言い、先刻の花井との会話の内容を話して花井をからかう。
その話を聞いて、花井の背中にくっついたままの田島が好奇心に瞳を輝かせるが、花井はそんな田島を振り払う。
「なんだよ―、つまんねぇの。一人位晴れ着着て来ねぇかな」
「一人位つっても後は阿部だけだぜ?」
「あー…阿部は着ないだろうね…」
「想像つかないしな」
花井から離れ頭の後ろで腕を組み不服そうに言う田島の言葉に、それは無理だろうと栄口が苦笑する。