おお振り
□風邪
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「くしゅん!」
休日の練習日、西浦高校野球部の部室でそれは起こった。
最近続く冷え込みで体調を崩した三橋は、部室でユニフォームに着替えようとシャツのボタンに手を掛けたところでくしゃみをした。
「あれ―?三橋風邪―?」
「う…うん…でも平気…だよ?」
クソレ水谷の間延びした問い掛けに、部活を休まされるのではないかと危惧した三橋がビクッと身体を跳ねさせると、きょどきょどと視線を彷徨わせながら答える。
「風邪なら無理すんなよ?早めに直した方が良いからな」
「花井…くん…」
「花井、大丈夫だよ。三橋のことはオレが見るから」
「そうか?」
花井に帰れと言われるのではと身を堅くした三橋を見て、阿部が助け船を出した。
だが、
「そういうことだから、三橋、脱げ!」
「はぁ〜!?風邪ひいてんだから暖かくしなきゃ駄目だろ」
妙に瞳を輝かせ、生き生きした阿部が三橋に命令するのを聞いて花井が素頓狂な声を上げる。
「だからだ」
阿部は意味の解らないことを言いながら、いきなり服を脱ぎ始め下着一枚になる。
そして当然着るはずのユニフォームを手に取ることもなく、両手を広げ三橋に歩み寄る。
「あ…阿部…くん…?」
阿部の奇行に戸惑いを隠せない三橋。だがそれはその場に居る阿部以外は皆に共通したことだ。
「阿部…?何を…しようとしてるんだ?」
花井が「落ち着け自分」と自分に言い聞かせながら確認するように問い掛ける。
「風邪の時は肌と肌で暖め合った方が良い」
言いながらうさん臭い笑顔を浮かべ、三橋ににじり寄る阿部を慌てて花井が後ろから取り押さえる。
にじり寄られた三橋は涙目だ。
「ちょっと落ち着け!阿部!何でそうなんだよ!?風邪薬飲ませるとか有るだろ」
「駄目だ。三橋はオレが暖める!」
不純な動機が有るとしか思えない発言をする阿部を見て、泉は着替えながら「流石にキモいな」とドン引きする。
「三橋!お前もオレが良いはずだ!な!?」
「…え……あ…阿部…く…オレ……オレ…っ…」
根拠なき自信に溢れる阿部の言葉に、三橋はビクッと身体を跳ねさせる。
(嫌…だけど……嫌だって…言ったら…阿部くんに…き…嫌われちゃわない…かな…?)
そんなことを考えその場に蹲る三橋を見て、花井は阿部に引きずられそうになるのを必死で耐える。
「阿部、お前いい加減に――」
「はよー!皆早いよな、オレ一番家近いけど――花井と阿部何やってんの?」
花井の言葉を遮るように田島が部室に入って来た。
「あぁ、田島か、これは――」
「なるほどな!」
花井が状況を説明するより早く、何かを理解した田島は花井の服を脱がし始める。
「ギャアア!何やってんだよ!?脱がせるな!」
「相撲してたんだろ?まわしはないからトランクス一丁でやんねぇとな!花井も脱がねぇと。手伝ってやっからさ!」
激しく誤解した田島に脱がされまいと、花井は阿部を戒めて居た腕を放し田島に抵抗する。
開放された阿部は軽く腕を回しストレッチすると、阻まれることなく三橋に歩み寄る。
こうして三橋を守ろうとする者(花井)は居なくなった。
「三橋…オレが肌で暖めてやる!」
ジリジリと下着一枚で三橋ににじり寄る阿部。
部室の隅に蹲る三橋。
止めるのも面倒なので放置して居る泉。
とりあえず傍観に徹する栄口。
所詮何も出来ないクソレ。
花井を脱がせようとしている田島と、それを必死に拒否する花井。
巻き込まれたくない巣山、沖、西広。
阿部の魔手が三橋に迫る。
「あはは、本当田島と花井仲良いよね―」
そんな中、空気が読めて居ないのか、それとも三橋を助けることを諦めて居るのか着替え終えた水谷がロッカーを閉めながら言い、バットを探す。
「三橋!」
心なしか息が荒く目も充血している阿部が、怯え震える三橋に肉薄する。
「ああ、有った有った!こんなところに有ったんだ―」
水谷は間延びした声を上げ、床に転がったバットを見付け、拾い上げる。
「ぐああぁああぁ!」
阿部は苦痛の呻き声を上げながら、下着一枚で普段より無防備になった股間を押さえ身体を折る。
水谷の拾い上げたバットが、運悪く阿部の股間にクリティカルヒットしたらしい。