バトテニ

□探し人
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 何が有っても守りたい人がいる。
 早く探し出さなくちゃなんねぇんだ。


✝探し人✝


 こんなクソゲームなんかで、失いたくない大切な人を探して、俺は丸井先輩が行きそうなところを探し、武器を片手に走り続ける。
 勿論、周囲への気配りは忘れない。
 立海のレギュラーになったくらいだ、どの先輩も油断ならねぇ。
 隙を見せたらすぐに殺られる。
 出来るだけ音を立てないよう、気配を殺し、周囲を警戒しながら走る。
 多分、俺の目は赤く充血しているだろう。
 通常の状態では到底無理な芸当だ。
 ったく、強化合宿だって言われてきたけど、何の強化だよ。
 テニスのはずじゃなかったのか?
 レギュラー八人で殺し合えだ?
 ふざけんじゃねえ。
 聞かされた全員がそう思ったはずだ。
 だが、生きて帰れるのは生き残った一人だけ。
 チームメイトと言っても、皆それぞれ目指すもんが有る。
 守りたい奴や、信念が有る。
 それを守り抜くため、殺されても良いなんて思う超お人よしは、うちの先輩の中には居ないだろう。
 勿論俺も殺られるつもりなんてさらさらねぇ。
 守りたい人がいるから。
 恋人の丸井先輩。
 やっと両想いになったのにこれはねぇだろ。
 殺し合えなんて。
 でもどちらか片方しか生き残れないのなら、俺は先輩のために死んでも良い。
 丸井先輩と俺だけになったら、俺は自殺する。
 それしか先輩が生き残る術はねえだろうから。
 もし、このゲームとやらに逃げ道が有るなら、柳先輩が何か言うはずだ。
 それでも柳先輩が何も言わなかったのは、逃げ出せないと判断したからに違ぇねえ。
 だからこのゲームに乗るしかねぇんだ。
 首に付けられた首輪型の爆弾が、俺たちを拘束している限り、最後の一人になるまで殺し合わなくちゃならねえ。
 出る前に落ち合う場所を決められなかったのは痛いが、丸井先輩を見つけて、最後の二人になるまで守ってやる。
 丸井先輩は誰にも殺らせねぇ!
 今まで走ってきた森が切れると、数軒の民家が有る開けた場所に出た。
 丸井先輩はかなり食い意地張ってるから、食い物が有りそうな場所に行くはずだ。
 民家が密集した場所、果樹園の小屋、どこかの食料品会社の倉庫、それかここ。
 今までここ以外の場所を探してきたから、居るとしたらここだろう。
 どうか、居てくれ。
 そう願いながら、民家に歩み寄る。
 人の気配を探りながら、慎重に。
 手にした銃をしっかりと握り、いつ敵が出ても撃てるように。
 一番近くに有った民家の扉に手をかけると、鍵も掛けられて居なかったのか驚くほど簡単に侵入を許す。
 民家の中と、背後。
 両方を気にしながら、民家に足を踏み入れる。 ギシッ、と床板が軋む音を立て、思わず動きを止める。
「誰だ!」
 俺の立てた音に気付き、警戒心露わに掛けられた声に思わず気が緩む。
「俺っスよ、丸井先輩」
「なんだ、赤也かよぃ。警戒して損したぜ」
 安心したような声と一緒に、恐らくキッチンで有ろう部屋から丸井先輩が出て来る。
 その両手には想像通り、大量の食糧が抱えられていた。
「やっぱ食いもん探してたんすね?探しましたよ」
「食いもんねぇと何もやる気出ねぇだろぃ?ってか、赤也充血してんじゃん」
「こういう事態なんスから仕方ねぇっしょ?」
「ふーん。で、俺を殺る気はねぇんだろ?」
 聞いて来ては居るが全く殺されると思って居ない様子の丸井先輩の言葉に、引き金に指をかけ安全装置が付いたままの銃を回しながら答える。
「当たり前っスよ!寧ろ守ろうと思って探してたんスから」
「何、一人しか生き残れないのに守ってくれんの?」
 肩にかけた鞄に食糧を詰め込みながらいつものようにガムを膨らませる先輩を見てると、今の状況が嘘のように思える。
 けど先輩の言葉はこの状況が現実だと突き付けてくる。
「守るっスよ?先輩のこと、命に代えても守ります!」
「……そっか。シクヨロ」
 丸井先輩は嬉しそうににっこりと笑い、本当にいつも通りに答える。
 そんな先輩を見ていると、本当にこの人の笑顔を守らなきゃなんねぇと思う。
 先輩に手を汚させずに、守って、俺が死ぬ。
 優しい先輩は傷付くだろうけど……先輩前向きだし、いつかまた笑って幸せになってくれればいいから。
 まあ、辛いからって俺のこと忘れねぇで欲しいんだけどさ。
「こちらこそ、よろしくっス」
「で、これからどうする?ずっとここに居るのも危ねえだろぃ?」
「適当に移動しながら会った人たち殺していきます。走って移動するのと、相討ちで減ってるの考えると……まあ、一回目の放送って奴っスか?それが流れる前に決着つくっスよ。そんな広い島じゃねぇし」
 このゲームの制限時間は、人数が少ない事を考慮してか二十四時間だ。
 六時間に一回、死んだ奴の名前を放送するらしいから、一回目の放送は後五時間十五分位か。
 腕時計を見ながら答えると、丸井先輩先は不安そうな表情を浮かべる。
「マジかよ。走って移動って……体力落ちるといざって時不安だぜ。体力温存して来たるべきチャンスに備えたほうがいいだろぃ?」
 確かに丸井先輩はそんなに体力が有る方ではない。
 一緒に組んでるのがジャッカル先輩だから比べてしまう事のせいっていうのもあるし、一般的にみると体力有る方だろうけど、立海レギュラーの中では体力がない。
 このゲームで戦うのが他の相手なら構わないけど、戦う相手はその立海レギュラー。
 丸井先輩が不安になるのも解る。
「大丈夫っスよ!こういう時の俺って鼻が効くんス。無駄に走り回るなんてないっスから」
「本当かよ?」
「任しといてください!」
「ん、なら頼む」
 不安そうな先輩を励ますために言うが、嘘じゃない。なんとなく、気配を感じる。
 気配を消しているんだろうけど、なんていうか感覚的に解る。
 無駄に走って体力を消費する事はない。
 俺のそういう勘の良さを知っている先輩は、すぐに安心したように笑ってくれた。
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