バトテニ
□目を瞑れば
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遠くで銃声がする。
✝目を瞑れば✝
もうゲームが始まってどれ位経ったんだろう。
時間の感覚がない。
時間の感覚だけじゃなくて、現実感もないんだけど。
だってこんなの可笑しいじゃん。
今まで一緒にテニスしてたのに。
合宿だって監督が言ってたから、また皆と楽しく過ごせてうれCって思ってたのに。
夜になったら向日達と跡部の部屋に遊びに行って、まくら投げして、花火して、トランプして、お菓子交換したり。
そのつもりでいたし、そう信じてた。
それが、こんな殺人ゲームとかに巻き込まれるなんて。
俺はギュッと膝を抱えて蹲っている。
俺が今居るのは滝の裏。
五十音順に外に出たから、俺は一番最初に外に出られたし、その分スタート地点から遠くに行けた。
地図も見ないで適当に走って、たどり着いたのが今隠れている滝だった。
滝まで来てどうしよう、って思ってたら後ろの茂みから音がして焦って足を滑らせて滝壺に落ちたんだ。
で、慌てて浮き上がろうとしたんだけど、滝の勢いが凄くて淵に引きずり込まれて死ぬかもって思ったんだけど、必死で抜け出そうと泳いだんだ。
水面に顔を出して、呼吸を整えて、周りをみたら洞窟みたいなところだった。
なんか、滝壺の下と滝の裏に空いた洞窟が繋がってたみたいで、構造的にこの洞窟に入るには滝の下を通らないといけない事に気付いたから、俺はここで身を隠している。
だって外出たら誰かが俺を殺そうとするかもしれないじゃん。
それは、合宿でやるつもりだったまくら投げで、俺がまくらを当てる相手かもしれないし、俺にまくらを当てる相手かもしれない。
でも当たるのはまくらじゃなくて銃弾とか、刃とか、そういう物なんだろう。
それは支給品の鞄から出てきたサバイバルナイフを見て解った。
俺は誰も殺したくないし、殺されたくないし。
だからここで早く悪夢が覚めるのを待ってる。
目を瞑って、冷えた体を温めるように膝を抱えて。
洞窟の壁の滝側には小さな覗き穴になるような亀裂が何箇所か有ったから、そこから外を窺う事も出来るし、水の流れおちる音と一緒に外の音も聞こえる。
結局、俺が滝壺に落ちる原因となった音の正体は俺の次に外に出たであろう跡部じゃなかったみたいだけど、結果的に地図にも載っていない安全な隠れ家を手に入れる事が出来たのはマジマジラッキー。
でも本当にこれが夢だった方がうれCーんだけど。
銃声と、死んだ皆の名前を知らせる放送がずっと頭の中ぐるぐる回ってるみたいで眠れない。
夢の中で寝たらもしかしたら夢が覚めてくれるかもしれない、なんて思いながらもこれが夢じゃないんだって何処かで解ってる。
でも現実感はない。
目を瞑って何も見ないようにしてるせいかな。
音は聞こえるけど。
目を瞑っていれば嫌な事は何も見えない。
皆が殺し合っているのも、皆の死体も。
ただ、目を瞑って終わりを待ってる。
悪夢の終わりか、ゲームの終わりか、それともまた別の物なのか解らないけど。
「……から…………を…………ように……」
ああ、また放送だ。
滝の音で何言っているのか聞き取れない。
まあいいか、だってここは安全だし。
誰も俺に気付けないだろうから。
俺は目を瞑って終わりを待ってれば良いんだ。
そう思ってその場に蹲り続けて、突然の電子音。
携帯のアラームだっけ?
なんか予定有ったかな?
電子音のリズムが早くなってきてる。
五月蠅いな、消さないと。
でも携帯鞄の中だ。
目を開けたら見たくないものが見えちゃうかも。
いいや、そのうち切れるよね?
ここ滝の裏だし、水の音でこっちの音外に聞こえないだろうし。
うん、いいや。
電子音が早くなる。
大丈夫、嫌なものは何も見えない。
だから何も怖くない。
芥川慈郎 死亡
end