藍〜story of possible〜
□Cause your love
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夏の蒸し暑い空気が纏まりつく中、シンジは深い溜息を吐きながら長い坂道を下っていた。
本当ならば、自分の隣には愛する少女の姿があり、その少女と腕や指を絡め歩いていた筈だ。
しかし、現実には一人寂しく下校している。
『ごめん! 今日はムサシと遊ぶ約束してるの』
これで何度目の断りの言葉だろうか?
最近では自分と一緒に帰る事の方が少ない。
「浮気ってやつ?」
不意に漏れた言葉に、シンジは肩を落とした。
考えれば考える程、その前兆が見られる。
確かに自分は冴えない男だと理解しているが、それを彼女は愛してくれていた。
「飽きたのかな」
愛が永遠に続くモノだと考えられる程、シンジの思考は短絡的でもなければ楽天家でも無い。
「否、僕が悪かったのかな」
昔の自分は極力他人と関わる事を避けていた。
マナと付き合う様になっても、それは変わらず、恋人同士がする当たり前のキスでさえ、シンジはする事に抵抗していた。
――だって、恥ずかしいよ?
それが付き合い始めた頃の自分の口癖だった。
抱きつかれる度に、唇を重ねる度に、体を交わらせた事は無いが、もし機会があったのならば、自分は口癖を言っていただろう。
しかし、その機会は永遠に失ってしまったかもしれない。
それが運命だったのだ。
自分の様な他責思考の塊が他人に好意を抱いて貰える等、奇跡的だったのだ。
「仕方ないさ・・・僕の所為だから」
その呟きは自身に染み込む様に、雲に包まれた空へと消えていくのであった。