藍〜story of possible〜

□To your heart
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真夏の夜は湿気が高く蒸し暑い、日本全国の一般的な住宅にはどの部屋にでもクーラー等の家電製品が設置されている。

ここ葛城邸も一つの部屋を除いて快適な睡眠を約束されていた。

窓を開けても一向に涼しくならない部屋で寝汗を掻きながら睡眠を送っている葛城邸の家政夫の向かえの部屋に住む赤毛の少女は、真夏の蒸し暑さとは違うものの所為で眠れずに居た。

何度も寝ようと瞼を閉じるが眠気は一向に襲ってくる気配はなく、軽く汗ばんだ肌にタオルケットが襲い掛かり張り付いてくる。

それ処か、瞼を閉じる度にある少年の姿が思い浮かんでしまう。

優しげに自分に微笑むシンジの姿を思い浮かべる度に心臓は激しく動悸し、黒子一つ無い白い肌を紅く染め上げる。

何故、こんなにもシンジの顔を思い浮かばせてしまうのだろう?

自分に理解出来ない不可解な思いに太陽の様に燃え上がる朱の髪を掻き回してしまう。

熱で冴えてしまった頭では寝る事は出来ない。

明日は平日で学校があるのだから、これ以上起きていると朝に支障が出てしまう。

唯でさえ夜更かしは肌の天敵なのだ。

「シンジには何時でも綺麗な私を見て・・・」

不意に言いかけた言葉を、心の中で必死に否定する。

自分は容姿端麗、才色兼備、成績優秀、文武両道と人物を評価する日本の四字熟語の良いとこ取りの人間なのだ。

その自分が十人十色で可も無く不可も無い平凡な少年の前で綺麗で居たいと思わなくてはいけないのだ。

「シンジにはマナ板で充分よ」

自分自身に言い聞かせるように呟いた言葉であったが、言葉にはアスカの思いとは逆に力が籠もっていなかった。

シンジとマナが仲良さ気に指を絡めて歩いている姿を・・・シンジの微笑が自分以外の誰かに向けられている姿を思い浮かべると何故だか胸の奥が鈍く疼いてしまう。

微笑みは自分だけに向けて欲しい。

指を絡める相手は自分であって欲しい。

この想いは自分の持ち物を誰かに奪われない様に思うのと同じことだ。

そう無理矢理纏めると、火照った顔と思考を冷ます為に、キッチンへ飲み物を取りに向かった。
 
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