蒼〜Wish to the sky〜
□第壱話
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静けさに包まれた街。
数万と住んでいる筈の人の気配は無く、蝉の声さえも消え去っている。
あまりにも不吉な街に一人の少年が佇んでいた。
何者にも染まることの無い事を象徴する様な漆黒の髪は肩口まで伸ばされ、黒曜石の瞳は誰しも魅了される輝きを放っている。
その中性的な顔立ちは、彼の魅力を何倍にも引き出していた。
唯一の欠点と言えば、髪型とその顔立ちのあまりにボーイッシュな少女にも見えてしまう事だろう。
「電話は繋がらないか・・・まぁ、仕方ないか」
少年[碇シンジ]は誰も居ない街を見渡しながら言う。
「まだまだ来ないよな・・・あの人はガサツでズボラし」
数日前に書類と共に入っていた写真に映る女性を見ながら溜息を吐いた。
ガサツだとは知っていたが、待ち合わせ時刻から一時間以上も経っているにも関わらず、待ち人の気配は無かった。
「今頃焦って準備をしているんだろうな」
その姿は用意に思い浮かばせられる。
寝癖でボサボサになった髪を整えつつ、昨日の夜に準備していた青のチャイナドレスを着込んでいるのだろう。
それとも、今でも布団の中で夢の世界に旅立っているのだろうか。
そう考えると知らず知らずに笑みが零れてしまう。
彼女は自分の姉の様な存在だった。
確かに駄目な姉だったが、それでも彼女の魅力は衰えたりしない。
しかし、シンジは彼女を待つ事無く、近くの車道に乗り捨てられてある原動機付き自転車に跨った。
時間は限られているのだ。
ネルフに着くのが遅くなれば、その時間だけ愛しの少女の身に危険が迫ってしまう。
姉の様な女性を待つよりもネルフへ向かうほうが何倍も重要な選択だった。
シンジは颯爽と風になり、街の中へ姿を消すのであった。