小説(版権)

□スーコル(FF8)―ディシディアOP―
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―本当に、俺でいいのか?
俺はそう尋ねた気がする。しかし、いつ、どこで、俺は誰に?
・・・ああ、無意味だったな。これじゃあ、壁に話しているのと変わらない。

大雨が轟々と降り荒れる、大地に沈んだこの廃墟の街に。
暗雲の下、戦火に喘ぎ、倒れたものは皆虚しく崩れ去った。傾いた柱が連なり、延々と瓦礫の山が広がるばかり。しかし、ふと人影が地面に差し込む。青年が一人、瓦礫に腰掛けていたのだ。
茶色の短髪を雨に濡らし、ただ黙然と顔を俯かせている。静かに佇むままで、彼の姿は孤独をにおわすようだ。雨の轟くこの沈黙の場には、ひどく似つかわしいが。
―スコール・レオンハート、時は来ました。戦いの時が・・・
青年の首に下げたネックスレスが揺らめき、そのライオンが涙を湛えるように瞳を鈍く光らせた。その時彼が、スコールが、目を開けて顔を上げる。
「命令には従う。これは、任務だ。」
“なぜ俺がしなくちゃいけない。”
鋭い眼光を青色の瞳にたたえ、スコールは呟いた。あれほど空を荒れ狂っていた雨が止んだのだ。暗雲に光が零れ、日が差し込む。地面に突き刺していた銃を模した大剣・ガンブレードを抜き放ち、彼はこの廃墟の街を一人歩み出した。
“いや、俺であるべきなのかもしれない。”
スコールが通り過ぎようとするその瞬間、純白の石柱に亀裂が走った。粉々に砕き、“かりそめの獅子”が彼の背後から躍り出た。空虚な人形の姿、スコールはガンブレードを振り向き様に構え、目前に迫る白銀の刃をはじき返した。瞬く間もなく彼は地面を蹴り、この敵の頭上に踵落としを繰り出した。
“ヒールクラッシュ.”
疾風を切り裂き、敵を宙に浮かせた瞬間ガンブレードが火花吹く。荒々しい突風となって地面に蹴り下す。青き瞳は敵を捉え、その空虚な瞳に重なった。
“エアリアルサークル”
刃に赤き光が放たれた。スコールが円舞を描く時、地面を震わすほどの爆発が巻き起こる。かりそめの獅子は光にのまれて砕け散り、スコールが地面に降り立った時には塵へと消え去る。再び静寂がこの場に木霊し、彼は力を抜くように剣を下ろした。しかし、
―アポカリプス
スコールが立つその場所に、巨大な紋章が描かれる。彼は愕然と背後を振り返った。瓦礫の上に、“かりそめの魔女”がほくそ笑んで彼を見下ろしていたのだ。大地を揺さぶり、この紋章から灼熱の光が爛々と放たれ、彼の全ては呑まれた。
“終わり、なのか?”
「結末は見えている。」
耳を掠めたその声に、スコールは目を見開いた。白き閃光が“かりそめの魔女”を一刀のもとに切り裂いた。瞬く間に紋章は消え失せ、冷ややかな風が吹く。
「剣に迷いがあるな、スコール。」
スコールは怪訝に眉をひそめ、光の戦士(ウォーリア・オブ・ライト)を睨むように見つめる。荘厳なる甲冑をまとう一人の騎士、白銀の剣を振るい、無表情のままに彼を見下ろす。しかし、その瞳はひどく穏やかで、彼の心すら見透かすような鋭さを光らしていた。
“眩しい奴だ。”
スコールは憮然と何も言わず、一人歩み出してしまう。光の戦士はただ無言にその姿を見つめ、また彼と同じ方へ歩み出す。沈黙と沈黙の駆け引き、張り詰める空気が刃のように彼の肌を刺すようだ。
「俺は一人でいく、何があろうとな。」
“いや、一人ではどこにもいけない奴だ。”
スコールは隣に光の戦士が並ぶ時、目も向けずに冷然と言い捨てる。それを受けて光の戦士は微かに視線を彼へ向けるも、また空へと目を細めた。
「光は、我らと共にある。」
暗雲は緩やかにほどけ、空に光が覗く。優しい光に照らされて、スコールは眩しげに空を見上げた。一羽の白き鳥が頭上を飛び、一枚の羽を落としていった。舞い落ちるその白羽を、スコールは掌に掴む。
―あなたがいいの。
胸にかすめる声は優しく、スコールははっと目を見開いた。しばらく呆然と立ち尽くし、ふと笑みを湛えた。その白き羽に込み上げる心全てをこめて、ただ無造作に投げ捨てるのだった。
“まだ会えそうにないな。だが、必ず・・・”
ひらりひらりと舞う羽は、水溜りへと。一つ二つの波紋を広げ、一人の青年が過ぎ去っていく背中を映し出す。彼らは今ここに旅立った。

つかの間の光は閉ざされ、暗雲に雷鳴が駆け巡る。
生き残った10人の戦士たちが集うその場所に、彼もまた―
“勝ってみせるさ、この戦いに。”
 

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